21 聖女降臨 完全覚醒 ヴィオレットSide

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「聖女ならば、力を示しなさい」  国王が私に催促したが、私は力無く項垂れていた。私から聖女のスキルはもう失われている。それは自分が一番よく知っている。  皆が次から次に私のことを非難する告発を続けたが、私はひたすらうなだれるばかりで、何も言えなかった。言葉を発する気力がもうなかったのだ。  最後に私が引き立ててられていく瞬間、私は婚約者だったヒュー王子を思わず見つめた。  ヒューの瞳にわずかな憐憫が見えた。私はその瞳を見ただけで、押さえてきた涙が込み上げてきて、力無く泣いた。ヒューの隣に、私の親友だったルネ伯爵令嬢のマルグリッドの姿を見たと思ったが、見間違いかもしれない。私の目は涙で曇っていたから。  泣きながら引きずられて行った。もう何もかもどうでもいいと思えた。力を失った聖女など用無しだ。  華やかなドレスに未練があったわけではない。公爵令嬢としての人生に未練があったわけではない。聖女としてのスキルに未練があったわけではない。ただひたすら、最愛の人に裏切られてフラれたという事に私の心は計り知れない打撃を受けて立ち上がれなかったのだ。
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