私が消えていく

1/1
前へ
/3ページ
次へ

私が消えていく

「今日が、君と居れる最後の夜だ」 寂しい感情をぐっと抑え、私は彼が寝ているベッドから身を下ろす。 君はやっぱり気持ちよさそうに寝るね。 「出会った日、あの日からこうなることは決まっていたんだよ。だから、しょーがないよね」 私と君が初めてであったのは、確か二年前だったかな。 私は天使だ。 天使というのは、美化され言い換えられただけのただの怪異(かいい)だ。 私が誕生した日は、私自身も覚えていない。 気づいたら、私は生きていた。 いや、恐らく生きてはいないのだろう。 その証拠に、私は今日消える。 自分のことは自分がいちばんよくわかる。 私は、この世界の人の記憶から消え去って、この世界は私が存在しなかった世界へと変化していくのだろう。 直感で私は感じ取ることが出来た。 だけど、消える前に君と、幸せな日々を送れて本当に良かった。 君と過ごした2年間は、私にとってはかけがえのない日々で、君がいたから私は幸せという感情を知れた。 私は、自殺し生まれ変わった怪異だ。 (すた)(くさ)っている世界に対して私は因縁があったのだろうか。 私は天使へと生まれ変わった。 私は、親にも友達にも恵まれず、不幸な人生を送っていた。 虐待、いじめ、暴力、言葉の制限、食事の制限、生きることへの制限。 私は耐えきれなくなり飛び降りた。 これが、私が天使となる前の人生である。 だけど天使に生まれ変わった私は、以前の人生と比べて反吐(へど)が出る程の素晴らしく幸せな人生を送っていた。 全ては君に出逢えたおかげだよ。 あーー私はもう少しで消えてしまうんだ。 本音がこぼれる。 「まだ消えたくないよ。まだ一緒にいたいよ。ねぇ”春樹(はるき)”。私まだ消えたくないよ。」 もう一度声が聞きたい。 もう一度愛してると聞きたい。 私は、君のことを起こそうと、体を()さぶろうとした。 私は、君に()れることができなかった。 「あぁもうここまで進行したんだね。もう手遅れか」 きっと、私の声ももう君に届いていない。 「嫌だ。ねぇ愛してるって言ってよ。また抱きしめてよ。私やっぱり君がいない日々なんて想像出来ないよ。君がいなきゃ、私は生きていけない」 私の中の何かがプチンと切れた。 気づいた頃には、私は大粒の涙を降らしていた。 天使が泣くなんておかしいって、また春樹に怒られちゃうな。 「あぁ。まだ、まだ消えたくないよぉ。ああああああああぁぁぁ」 涙が止まらないよ春樹。 「あああああぁああぁぁぁ。うぁぁぁあぁぁぁぁ。はるき。起きてよ。なんで無視するの。はるき、ねぇはるき、あいしてるって、もう一度聞かせてよ」 みるみる涙の量が増えていくが、その涙でさえも、君を通り抜けてどこか彼方(かなた)へ落ちていく。 「ああああぁああぁぁぁああぁああぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁ」 この世界が、私を否定している気がした。 気づいた頃には、自分の体が透け初めており、意識がどんどん朦朧(もうろう)になっていく。 「あぁぁ、わたしほんとうにきえるんだ」 消えるまでに、気持ちを伝えよう。 一方通行でもいいから。 私が君と過ごした2年間の思いをまとめたひと言。 「はるき、”あいしてる”」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加