日本伸没

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「続いて、経済ニュースです。今年のGDPの成長率は0.0001%、昨年とほぼ同じとなり――」  いつの間にか、テレビはニュースに移っていた。どうやら、これもチジーム光線の影響らしかった。労働生産性が上がったのに、GDPが伸びないなんて、意味がわからない。  そんな現象が起こっているのが今の日本である。チジーム光線の影響がどんな概念に影響を与えるのか、理屈は解明中だ。  企業の売上も伸びていない。その結果、毎年、新製品が発売されていたスマートフォンや、電化製品もモデルチェンジは2年に1回にするとのことだ。  今のスマートフォンでも十分に使えるので、1年ごとに新製品を出すのが、異常だったように思う。  そういえば、最近、日本が穏やかになった気がする。成長、成長と声高に言わなくなった。成績を伸ばせ、売上を伸ばせと、口うるさく言わなくなった。やってもどうせ、伸びないと、大らかに構えるようになっている。  おばあちゃんがリビングルームに入ってきて、椅子に座った。 「ワシもそろそろ、平均寿命だの」 「おばあちゃん、どこも悪くないから、まだまだ長生きできるって」  そう言ってはみたが、おばあちゃんの気持ちも分からなくはない。年々、伸びてきた平均寿命が、今年は止まったらしかった。  そのとき、テレビから突然、アラーム音が鳴った。 「ニュース速報です。政府から緊急の発表があるとのことです。カメラを切替えます」  画面には柏葉が映っていた。  彼は日本を救った成果が買われ、総理大臣になっていた。国会議事堂前みたいだ。 「皆様にお伝えすることがあります。日本を引き伸ばしていた謎の力が急速に弱まっています。このまま弱まり続けた場合、装置を停止させることになります。これは、政府としても喜ぶべき事象だと考えておりますが――」 「良かった。お父さんの残業代がなくなって、家計が苦しかったのよね」 「ワシは、もっと長生きするぞ」  大きな地震が起こらない平和な日本に戻るだけ……そう考えるべきだろうが、せわしない日本が戻ってくると思うと、私は憂鬱な気持ちになった。 「装置を停止するには、国民の意志確認が必要です。お手元にテレビリモコンをご用意ください。ただいまから、投票をお願いしたいと思います」  柏葉総理大臣の力強い声が、リビングルームに響き渡った。 (了)
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