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「既に、大手電機メーカーで装置の量産が進んでおります。財源は、政府が使える予備費です。各都道府県に一機ずつ設置すれば対応可能なことが計算上、分かっています。田尾さん、それで正しいですよね」
「ええ。ドクター中ノ島の装置は、原理不明ですが、確かに物を縮ませる力を発生しております。計算上、力をキャンセルできます」
低く唸るような声でそう言った。
田尾教授は、自身が解決策を提案できなかったのが悔しいのか、もしくは、ドクター中ノ島のことが嫌いなのだろう。
「ここで、皆様にお伝えしなければならないことがあります。この対策は有用なのですが、副作用があります」
大臣が視線でドクター中ノ島に話すように促す。
中ノ島は、目を丸くして「私が説明するのですか?」と言いたげに、自分を指さす。
「えっ……その……この装置は縮む力を発生させるのですが、原理がよくわかっていないところがあります。物理的に縮めるだけでなく、副作用として……『伸びるという概念自体』を弱めてしまうのです」
大島がすかさず「分かりやすく説明してください」と促す。
「例えば、『ゴムが伸びる』は物理的な伸びですが、『技術力が伸びる』は、概念的な伸びだといえます」
「じゃあ、俺のお笑い力が伸びなくなるなあ」
芸人の言葉は、今回も失笑すら得られなかった。
「ここで、国民の皆様にご判断をいただきたい」
柏葉大臣が、大島キャスターに視線で指示する。
「視聴者の皆様、テレビリモコンを用意ください。または、画面に表示されたQRコードをスマートフォンで読み取ってください」
私たち家族は意味が分からず顔を見合わせる。お母さんは既に、テレビリモコンを握っていた。
「皆様の見解をお聞きするために、投票を行っていただきます。今回の放送の目的はこれです。チジーム光線を使わないと日本は沈没……いや、伸没します。一方、未知の副作用もあります。それでも、装置を使うかどうか。多数決で決めたいと思います」
間髪入れずに大島が「賛成ならdボタンの――」と投票方法を説明する。
「もちろん、賛成だよね」
「いや、ばあちゃんは反対じゃ。自然の摂理に反しとる」
「それじゃあ、みんな死んでしまうよ」
「私、彼氏ができる前に死にたくないし」
同じような問答が日本各地で行われていることだろう。我が家では結局、おばあちゃんが折れ、賛成に投票することとなった。
「締め切りまであと1分です」
投票が締め切られて間もなく、結果が表示された。賛成92%。私としては、反対が8%もいることが意外だった。
「このあと、緊急閣議と国会召集を行います。最速で一週間後に装置が起動することになります」
柏葉大臣が締めくくり、番組は終了した。
翌日以降、テレビ番組も、学校も『チジーム光線』の話題で一色となった。
引っ張られる力の影響で身長が2センチ伸びたと言っている友達がいたが、真偽は定かではない。装置が起動すれば、それも収まるのだろう。
地震は相変わらず続いていた。
地震が嫌いな私は、一秒でも早く装置を起動してほしかった。実際、同じような声は日々、高まっているようだった。
予定よりも3日遅れ、放送から10日後に、各都道府県に設置された装置が起動した。
「いつも対応が遅い政府だが、今回は見直した」
お父さんは、そうコメントしていた。
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