日本伸没

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日本伸没

 スマートフォンが突然、大きなアラーム音を鳴らした。 「また、地震がくるみたい」  心配性の私は、咄嗟にダイニングテーブルの下に隠れた。その直後に床が波打った。幸い、大きな揺れではない。 「本当に美絵は、心配性だな。大丈夫、お父さんが全部の棚に、揺れ防止のチェーンを付けたから」  椅子に腰かけて悠々とビールを飲むお父さんに懐疑的な視線を向けつつ、私はテーブルから這い出した。もっと大きな地震がきたら、チェーンごときで支えられる気がしない。 「あなた、冷蔵庫も固定してよね。私、この前にいる率が高いから。それにしても、最近、多いわね」  お母さんが言った直後に、リビングルームのドアが開く音がした。 「ほんに、怖い、怖い」  ヨタヨタと足をすりながらに入ってきたのは、おばあちゃんだ。 「そろそろ、テレビ付けんといかんぞ」  おばあちゃんは、椅子に座りながらリモコンを操作した。 「政府の発表だと放送開始は19時でしょ。まだ時間があるから、美絵、ご飯を持って行ってちょうだい」  私はキッチンに移動して、山盛りの唐揚げとサラダをテーブルに運んだ。 「地震が多いのに、油を使うの、危なくない?」 「気にしてたら、いつまでも揚げ物が食べられないわ」  危機意識が低いようにも思うが、確かに最近、地震が多い。感覚が鈍っても仕方がない。 「それにしても、高層マンションちゅうもんは、よう、揺れるの」 「母さんは、ずっと戸建てに住んできたから、慣れてないだけ。マンションはわざと揺らして、地震の力を散らしてるんだよ」  お父さんが実母に説明するが、おばあちゃんは理解しているようには見えない。 「私もお母さんの意見に賛成。田舎の土地を売ったお金で、郊外の一戸建てを買えばよかったのに」  お母さんが最後の料理を運びながら、椅子に座った。 「まあ、そう言わんでくれ。ここに住んだおかげで、交通の便はいいだろ。美絵だって高校まで30分で行ける」  お父さんが肩をすくめながら、ビールを口にした。  我が家は、都内の高層マンションの30階に住んでいる。見晴らしはいいが、間取りは狭い。狭いのは我慢できるが、地震の揺れはどうにも我慢できない。 「もし、下の階が潰れたらどうなるの?」 「設計上、そんなことにはならないって、施工会社から聞いてる」  そう言われても安心はできない。  一戸建ての方が安全な気がする。二階なら飛び降りて脱出できる。あと、建物が破損したら、マンションは全員の合意がないと立て直せない。一戸建てなら、自分の意志で立て直せるメリットもある。 「まあ、ケンカはやめなせ。にしても、全国各地で地震が起こっているのが不思議じゃの。おっと、放送が始まるようじゃ」  おばあちゃんは、85歳という高齢にもかかわらず、大きな唐揚げを箸でつまんで口に入れた。 「重大な発表があるんだろうな。国民全員、自宅待機させてるんだから」  お父さんが言った通りだ。  全ての学校は午後、休みになった。それだけじゃない。日本中の会社にも、午後、休みにするよう政府から通達が出た。そして、家で放送を見るようにと指示が出た。 「緊急放送を始めます」  画面に大きく映ったのは、テレビでよく見る気鋭の女性キャスター・大島だ。美人だが、ちょっと性格がきつそうな印象。  おばあちゃんが、突然、リモコンでチャンネルを変えた。 「どこのチャンネルも、全部、同じ番組じゃ。こりゃ、えらいこっちゃ」
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