嘘つきな恋を、もう少し

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 放課後。  部活をしていない生徒も、まだ校内にわずかに残っているはずだ。  橋坂くん。橋坂、くん。橋坂輝基くん──。  心の中で何度もとなえながら、必死で彼の姿を探す。  見当たらない。教室にもいなかった。  そのとき気づいた。  私──馬鹿だ。スマホで電話かければ良かった──!  一階の渡り廊下を通った時──心臓に、突き刺すような激痛が走った。  もう立ってもいられない。  けれど。でも。  しつこいようだけど、彼に伝えていない。  だから、まだ止まるな。ちゃんと動け、私の心臓。  大好きで大切な人に、自分の言葉で、好きって伝えるまでは。  願わくば、あともう少し。もう少しだけ、この命の灯火と、不器用で切ない恋の寿命が、消えずに延びてくれたなら──。  他にはもうなにもいらない。  本当に、それだけでいいんだよ、私は。  諦め、その言葉が脳裏をよぎったとき。  橋坂くんの周りだけが、光って見えた。    ──見つけた! 「……空?」 「ハァッ、ハァッ! 橋坂くん……」 「どうしたんだよ、お前──」  顔、真っ青だぞ、と。  ただことではない私の様子に、流石に気づいたみたいだ。 「えー、えへへへ……。橋坂くんに、はじめてお前呼びされちゃった」  気づけば私は、彼の腕の中にいた。   「ふざけてないで……なんでこんなに、苦しそうなんだよ⁉ どうして──」 「私ね……病気だったんだぁ。余命宣告されてて、心臓発作で……いつ死んでも、おかしくないの……」 「────は、」 「ごめんね。ずっと黙ってて。橋坂くんは……私がいなくなったら、素敵な女の子と、素敵な恋をしてね」 「なんだ、なんだよ、急に、それ……っ。怒るぞ、空……!」 「大好きだよ、橋坂くん──」 「空────!」  全てを手放し、意識を失う直前。  なにもかも察したらしい、橋坂くんの熱を帯びた唇が。私の唇に、そっと柔らかく触れた。
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