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手記
僕は山里でカフェを営む傍ら、若い頃熱中していた音楽に関わる事をやりたくて、リハーサルスタジオを運営する準備をしている。
順風満帆とは行かず、ようやく今年の夏にスタジオ用の敷地で小さなロックフェスを開く運びとなった。
足掛け15年、もう還暦が近い。
本当はレコーディングスタジオ、ライブハウスの運営までしたいのだが、生きてるうちにどこまでか。
カフェではロックを流している。
昔風に言えば、ロック喫茶か?
山奥のロック喫茶。
流行ると思ったのだが、大誤算。
連日閑古鳥が鳴き、5年で進む目的地に3倍もの時間を費やしてしまった。
その間、店とアルバイト、貧乏暇なしで僕のギターの弦は錆びついて行った。
ともあれ、どうにかここまで来たんだ。
あんまりギャラ出せないから出演者で集客は出来ないけど、なんとかして成功させて弾みをつけないと。
集客・利益・そして何よりも素晴らしい一日に、とあれこれ頭を悩ませ、出演者リストに目を通していると、ひとつの名前に釘付けになった。
聞き慣れないバンドの名前が手書きされたそのメモのいちばん下に「コトハラ ハル(弾き語り)」の文字。
妻に確認してみると、「ああ、わたしが受けて言い忘れてた。弾き語りだし、増えるのは良いかなって。25歳の若い女の子だから、お友達連れてきてくれるかもしれないし。なにより、名前があなたと一緒じゃない!」
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