手記

11/15
前へ
/15ページ
次へ
 断っておく。  僕は春が好きだった。  かわいかった。  傷つけたくなかった。  そして、間違えた。  と、墓場まで持っていく。  春はその日、僕の職場に迎えに来た。 「オサムくん、おめでとう!」  ケーキを選ぼう、と。  僕の27回目の誕生日だった。  そのころすっかり意気消沈し、自暴自棄になっていた僕は、春の部屋の近くの居酒屋で、酔ってしまった。  春の部屋は、いつもの様にキャンドルで飾られた。  酔った勢いだった。 「春、君には欲情出来ない」  全裸の春は、目に涙を溢れさせ、 「気付いてたよ。音楽?何それ。わたしはオサムくん初めて見た時、この人しか居ないと思ったんだよ。だから、ギターとうたを練習して、曲作った。  あの、F.A.Dでのライブ、覚えてる?いつも文香ちゃんベタベタしてて、羨ましかった。わたしの運命の人なのに。アイラブユーオサムくん。だから、オサムくんに好かれたくて、文香ちゃんみたいになったんだよ。オサムくんだけなんだよ?わたしの生活は。どおして、文香ちゃんは良くて、わたしはダメなの?文香ちゃん、優しいオサムくんをキープして楽しんでるだけだよ、オサムくん、可哀想だよ」  正鵠を射る程に認められなかった。 「文香だって、良いやつなんだ。これ以上、悪く言うな」  語気を荒めたかもしれない。 「オサムくん、わたしたちの子どもがおなかにいるの。」 「もう、何が嘘か本当かわからないよ。  本当だとしたら、墮ろしてくれ。」  この一言に、ふたりは我に返った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加