手記

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彼女もオーディションに応募してきたそのひとりだった。 度重なるオーディションにも関わらず、僕のバンドは前のバンドを観に来ていた客でかたまりつつあった。 琴原 春 ボーカル・ギター志望。 自作曲有り それだけ書かれた封書が届いた。 僕はとりあえずトリオ編成となった自分のバンドにstereo worldと名前を付け、自作曲のリハーサルを始めていた。 しかし、ボーカルギターとしての自分の力量に自信が持てず、また、曲もまだたくさん作れなかったので会ってみようと思った。 とりあえず僕らのリハーサルを見てもらい、自作の曲を聴かせてもらう約束をした。 蝉がうるさかった。 その日スタジオに現れた彼女を、今でも忘れない。 小さな身体に大きなレスポールのギターケースを背負っていた。 肌は白く、おっとりしていそうな、可愛い女の子だった。 自己紹介を交わすと、「同じ名前ですね!」と、嬉しそうに言った。 彼女はスタジオの片隅に座り、僕らの拙い演奏に聴き入った。 somehow i don't think you knew when i told you so it goes summer squall 新曲のdevil inside me 彼女は、「ん?devil inside of meじゃないかな?」と言いながら、僕らの曲を気に入ってくれた様だった。 ベーシストが女の子だった為、あれこれ話が聞けた。 アメリカ人の元彼への対抗心からバンドを始めたいと思った事。 weezerが大好きな事。 小休止をはさんで、彼女の曲を弾き語りしてもらった。 メンバー一同聴き入ってしまった。 英語は流暢だが、歌もギターも僕以上に拙い。 しかし、コンパクトでわかりやすいポップソングが、既に完成していた。 「これは、一緒にはやれない、彼女の曲だけで別のバンドを作るべきだ」 そう思った僕は、空いたパートは僕が埋める約束で、もう一つのバンドの為のメンバー募集を一緒に出す事を提案した。
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