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プロローグ
手元には二枚の写真。今の時代ではほとんどの写真をスマホの中に閉じ込める中、私は十年前と二十二年前の現像した写真を見比べていた。
その中に写っているのは、若かりし頃の自分と今日の主役の幼き頃の姿だ。一枚目は初めて会った日に撮ったもので、女の子は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、向けられたカメラに頼りないピースをしている。この時彼女ははまだ六歳だった。それから十二年経って、お別れの日に撮った写真では見違えるほど明るい表情で白い歯を輝かせながら笑っていた。
共に過した十二年間を振り返る。つらいこともたくさんあった。彼女の苦しさを思って一緒に泣いた日もあった。くだらないことで喧嘩もした。大人として、彼女の背中を押したこともあった。
「幸せになりなさい。あなたにはその資格がある」
そう言って送り出したあの日から十年経って、今日に至る。
すっかりおばさんになってしまった私は久々にドレスに身を包んで座っていた。同じテーブルを囲むのは彼女が子どものときに友に過ごしてきた人たちだ。同年代の友人もいれば、私と同じ立場の人もいる。みんなが近況を報告しあって、笑いあってる中、私はぐっと歯を食いしばっていた。そうでもしないと、主役が登場する前に泣いてしまいそうだったからだ。
白と水色で統一された広い一室で、談笑する声が響いている。
すると、突然照明が暗くなった。司会がマイクを手に取る。
「それではみなさん。長らくお待たせ致しました。新郎新婦のご搭乗です」
背後の扉に照明が当てられる。やがて、ゆっくりと扉が開かれたその先には新郎新婦が立っていた。自然と目線は花嫁にいってしまう。ベールに隠されていても、十年前よりぐっと綺麗になっているのがわかる。お腹が膨らんでおり、私はまだ見ぬ赤子を抱く彼女の姿を想像した。想像の中の彼女は産まれたばかりの赤子を抱いて、夫となる人と幸せそうに笑っている。
真っ直ぐ前を見つめ、ゆっくりと歩き出す二人に拍手を送る。オーケストラの演奏が流れる中、私は目を離せないでいた。
幸せになってくれて、ありがとう。
伝えたい言葉はたくさん、たくさんあるはずなのに、今この瞬間だけは、ここまで生きてくれた彼女にただただ感謝の言葉が伝えたかっただけだった。
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