五、月読編

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「あなたはただの政治の道具です。その境遇を公表するまでタレントとしてもたいして売れていなかったでしょう。ポンコツな脳みそで理解できるかわかりませんがね、教えてあげましょう。なぜ人は個体差があるのですか。なぜ鳥は様々な種がいるのですか。その答えは神々がそう設計したからです。ですから優か劣か。そのふたつで判断するものではありません。時代が違えばその優劣は入れ替わるのです。あなたは知らないでしょうが、ポンナシにした戦士が活躍した時代もありました。復讐心から人殺しをした高校生もいました。人殺しはなぜダメですか。法律で規制されているからですか。そうです。現代は法を犯すことは禁忌とされていますし、犯した者にはそれ相応の罰が与えられます。古代ギリシャのポンナシ戦士たちは人殺しが生業でした。日本の辻斬もそうです。人殺しをすることが賞賛され、知力よりも武力のみが評価されたのです。しかし残念ながら現代では人殺しの能力はあまり評価されません。これは良いことですか、悪いことですか。もしくは醜いことですか。法律で規制されていなければ人殺しは認められますか。その判断におしりのぽんぽんを必要としますか。あなただって、みじめな生活は送りたくないですよね。だからそうやって自分の境遇で注目を集めてあらゆる欲を満たしている。そして自分に対して否定的な人間を視界から外して、自分の中で都合の良い世界へと作り替えている。あなたのような人間にポンナシを否定する権利はありません」 「なんだ。ただの神道信者じゃないですか。あと、人殺しはダメですよ。現代ではそれらを否定して、間違った人類史として残っているじゃないですか。それに、僕がなんと主張しようが、表現の自由という憲法がある以上、あなたにとやかく言われる筋合いないですよ」 「神道信者? わたしはポンナシで信仰ができないのに、……ですか。あと、表現の自由があるからといって、何を言っても良いということではないです。人殺しはダメだと言いましたね。例えばその表現の自由とやらで、ポンナシを言葉で傷つけて殺すことだってできる。あなたの主張は矛盾していますよ」 「あーあ、ポンナシはこれだから話しにならない」  放送禁止用語を平然と織り交ぜて討論している。ここまでヒートアップすれば、もはや放送できないだろうし、わたしが彼のことを理解してあげることはできるだろうが、彼がわたしのことを理解することはできないだろう。  人間とは、面白い。  次は彼に転生してみようか。などと一瞬考えがよぎるが、彼に神と成れるだけの才はない。いや、もしかしたら破壊神になれる素質があるのかもしれないが。 「色々言ってしまったけど、わたしはあなたのような人だって共生できると思っている」  しかし、この月読という人間。心から人間に差別のない世界を実現させたいと願っている。人間の個体差はおろか、あらゆる生物との調和。それを実現できると感じているし、変えるだけの素質を持っている。  月読なら、ポンナシだとか、カラスだとか。そんなものを全て凌駕した新世界を創造できるかもしれない。  わたしは確信した。  それより、もう、限界かもしれない。あまりに強い月読の自我に、わたしの本来的な創造神ゲツドクとしての神格すら食われてしまいそうだ。  悟ったわたしは、この身ごと天界に戻り、最高神テンテイにわたしの神としての素質を説明した。  そして、最高神テンテイはこう言いました。 「月読という名ですか。では、そなたを創造神に任命しましょう。その名からとって『()()()()』。そう命名します」 (おわり)
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