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「武田のやつちょっとムカつくよな。一緒にしばこうぜ」
「あ、ああ」
おしりのぽんぽんがない俺は、むしろ武田は良いやつだと思っていた。が、おしりのぽんぽんを持たない者だからそう思うのだろうか。懐疑心をぬぐい切れずも、いつものように俺は彼に従うしかない。でなければおしりのぽんぽんがないと疑われてしまいかねない。
この話しを持ち掛けてきた大柄な彼は、サッカー部の主将であり、学内カースト最上位でもある絶対的強者。皆からはボスと呼ばれている。彼に歯向かえば、俺がどうなるか。その結末はわかりきっている。
おしりのぽんぽんがない俺は、彼の取り巻きとして安全圏を確保していた。ポンナシとしての、精一杯の生存戦略をとっているのだ。
ボスに連れられ、サッカー部の部室の扉を開くと、武田とボスが軽い挨拶を交わす。
「よお」
「おう」
いつもなら他の部員も練習着に着替えるため、部室へ来ているはずの時間帯なのだが武田しかいない。
おそらくボスが根回しして、今この状況が出来上がっているのだろう。それはわかる。
しかし武田の様子がおかしい。学生服のまま着替えようとしている様子もないし、なんなら俺とボスが来るのを待っていたかのように落ち着いている。
そもそも放課後、部活前の時間にひとりしかいないこの状況。であれば、その異変に武田であれば気づくはずだ。それなのに、いつものように、まったく軽い挨拶を交わす程度。
俺の中でこの違和感が確信に変わったころには、もうゲームオーバー、手遅れだった。
背後からガッ、とボスが俺のおしりの付け根を学生ズボンの上から掴みかかり「やっぱりな」、と呟いて次には「やれ」とボスが武田に指示を出した。
武田が俺の身体を抑えつけて、ボスが俺のズボンを下ろし、下着までも脱がされ、尻が露わになった。
ボスと武田は、先日見たネットニュースのコメントのようなこと「そうだと思った」とか、「やっぱりポンナシか」とか。そんなふうに俺を罵っていたが、
「おい、やめろよ。ったくはめやがったな。秘密にしてくれよ」
と、俺は半笑いで応えた。が、いや、ちがう。違った。慢心していた。
こいつらとは、ずっと同じサッカーボールを追いかけて全国大会を目指した。休みの日だって一緒にカラオケで騒いだり、あの子が可愛いだとか、女にうつつを抜かしたりもした、……仲間。
紡いできた友情がこんなことだけであっさり切れてしまうなんて、あるはずがないのだ。そう心のどこかで思ってしまっていた。が、違った。
そんな友情の延長にあるちょっとしたじゃれ合いではなくて、これは規格品ではない不良品の異物検査。不良品だとわかれば、それは正規品の中にあってはならない異物。
俺は排除対象に他ならない。
「は? 何言っちゃてんだこいつ」
ボスが半笑いの俺を気持ち悪いんだよ、とでも言いたげに見下ろした次、ズボンを履きなおそうとする俺に対してボスの前蹴りを腹からくらってしまう。
その反動で俺は金属製のロッカーまで吹き飛び、ガシャンと音を立てる。倒れこみ、その痛みに俺の喉がうう、うああと声を漏らす。悶絶して右左と身体を揺らせば膝までずり上げかけた学生ズボンのベルトがカチャカチャと音を立てる。
こんなにも地獄の音は日常と大差なく隣接している。
もとより俺はガラスのような存在。熱伝導性も乏しいくせして、一緒に仲間の温度感を装っていた。衝撃を加えられたらこんなにも簡単に砕け散ってしまう無機質な物質でしかないというのに。
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