エピローグ

11/11
前へ
/180ページ
次へ
   マガンの元を退いたあとで、マヒワはアドウルとレイを屋敷内の部屋に案内した。  二人は住み込みの内弟子の扱いだった。 「マヒワ師範、ひとつ覗ってもよろしいでしょうか?」  といいだしたのは、アドウルだ。 「なんだか恥ずかしいわ。師匠のほうが性に合ってる」  マヒワの発言は、『師範』は免状があって初めて名乗れる流儀を背負った重い称号だが、『師匠』という呼び方は、私淑(ししゅく)を含めて、世間一般に流布しているのを意識してのことだ。 「んで、なぁに、聞きたいことって?」 「檻に入れられたまま、川に放り込まれるとき、師範はとっさに『お尻の穴をすぼめて』とおっしゃいましたが、あれはなぜですか?」  アドウルの真っ直ぐな質問に、マヒワの頬がみるみる赤く染まった。 「どわぁぁ! そんなこと言ったっけ? ええ……言いました! 言いましたとも!」  マヒワは、訳もなく、慌てふためく。 「師範、わたしも是非、聞かせていただきたい」  とレイも乗ってきた。 「あれはね……そう……あれは、くっ、口伝ですっ!」  おおっ! っと、アドウルはいたく感動している。 「なるほど! 僕は、口伝というものがどういうものか、前々から師範に質問しよう思っていたんです。どうりで、書物には書かれていないわけですね! さすがに、お尻の穴とは――書き難いですよね!」  ……………。  誤魔化すために『口伝』と口走ってしまった、などと言えなくなって、 「そう! そのおかげで、こうして、いまも元気に生きてるんだよ! ねっ、そういうこと! さぁ、さぁ、早く行きましょう!」  と、二人の背を平手でどやしつけて、マヒワは駆け出した。  その腰には、片眉つり上げバカ男から取り戻した、マヒワの剣が揺れていた。    ~ 『碧玉擾乱-王位の系譜-』(第三部)につづく ~
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加