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プロローグ
アドウル領の家宰として実権を握るダフネは、アドウル候の居城の敷地内にある兵舎の教官室にいた。
部屋の主のグッフスは、衛士隊の教官という立場でありながら、いつものように机の上に両脚を載せたまま、家宰に対して視線だけを向けてきた。
「三人を捕らえたようだな……」
ダフネは、グッフスの無礼な態度を腹立たしいと思いながらも、汚れ事を厭わずに引き受けるこの人材を、手放せずにいた。
「ああ、あんたは詰めが甘いからな。機を見るに敏とは、このことだ。どうだい、あの面倒な小娘も、うちのお坊ちゃんも、風前の灯火とはこのことだな。檻の中で震えてやがるぜ。まぁ、あの忠義者もオマケでついてきたが、からだがでかいだけで、何もできやしない。仲良く一緒に入って、檻を狭くしてるだけだ」
ダフネは、目の前にいるグッフスという男を、どうして教官という地位にまで引き上げたのかを思い返していた。
教官は衛士隊の隊長にも指示を出せる地位にある。
もちろん、有事の際、現場の指揮権は衛士隊長にあるが、衛士隊を訓練する際の権限は、教官が最高位だ。
こんな礼節のかけらも知らない男に習ったところで、ろくな衛士に仕上がるまい、と腹の中では思ってはいても、俗に家宰派といわれる派閥のなかでは、策謀家として一目置かれているグッフスという男の批判を、自分の口からすることはなかった。
グッフスは、領地内に三千五百人ほどいる衛士たちのなかから、自分の手足となって動きそうな者を探し出す嗅覚も鋭ければ、彼らを派閥に取り込む籠絡の手腕も抜きん出ている。
いつの間にか教官の一派ができあがり、反アドウル派のなかで影響力を増していた。
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