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領内の治安維持も衛士隊の領分であるが、この危険分子の教官が治安機関の頂点に立つことを、ダフネは意図的に外していた。
グッフスに治安を任せてしまうと、ダフネ自身が始末されかねないからだ。
このような気質の者は、一度手にした権力を絶対に手放すことはない。
このことを、ダフネは自分自身が一介の使用人から家宰の地位に登り詰めるなかで、身をもって知っていた。
「でも、どうする? さすがに死刑にはできんぞ」
とダフネがつぶやく。
「どのような始末であれ、人手が加わって死体になれば、噂が立つ。娘を殺されて、マガン元帥が怒り心頭! さぁ戦になった! あんたは勝てるか?」
準王族であるマガンの動員力は、このアドウル領を上回る。その兵力をもって、羅秦国随一の戦上手と謳われた元帥に攻められれば、勝てる見込みは万に一つもない。
この領地で軍を率いられるのは、統帥権をもつ領主のみ。とはいえ、現領主のアドウル候はまだ十四歳の年少だ。
領主の頼りない顔を思い浮かべて、ダフネは首を振る。
「まぁ、領主がいなくなれば、臨時の統帥権は家宰である、あんたに移る。元帥に攻め込まれるようなことになったら、せいぜい頑張るんだな。俺は逃げるぜ」
憎たらしいことをいうグッフスを、ダフネは睨み付けた。
「でも安心しな。そんなことにはならないように、ちゃんと考えてある」
「できるのか!」
「ああ、すべてがすっきりと解決する、魔法のような方法を、な」
「信じられんが……」
「あんたは、そのために俺をこの地位に就けたんだろ。俺はこの地位でできることをやるまでだ」
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