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   剣術の廻国修行中だったマヒワの元に、養父のマガンから戻ってくるよう連絡があったのは、一週間前のことだった。  家に帰って一夜明けると、マヒワは自宅に併設されている剣術の修練場で弟子たちとともに早朝稽古に励んだ。  マヒワの家は、御光流(みひかりりゅう)剣術の宗家であることから、屋敷内には住み込みの弟子たちが沢山いた。  久しぶりに帰ってきたマヒワに稽古をつけてもらおうと、弟子たちが列をなしていた。  マヒワは、最年少かつ女性で剣聖となった最初の剣術家だった。  ちなみに、宗家であるマガンも『剣聖』と呼ばれているので、養子縁組みであるものの、親子で『剣聖』である。  マヒワが一通りの稽古を終えて、マガンの元に顔を出すと、「王都守護庁に行け」という短い言葉のみ与えられた。  ほかに何か説明があるのかと思い、小首をかしげて待っていたが、「ばか者! 早く行かんか!」と叱られただけだった。  あまりにも要領を得ないので、屋敷の者に聞くと、どうやら王都守護庁の長官代理から直々のご指名があったらしい。  王都守護庁とは、文字通り王都の治安を維持するだけでなく、王国内の治安部隊の頂点に位置する行政庁であり、その所管には、王宮守護の禁衛軍も含まれる。  ここ、羅秦(らしん)国では、王族や準王族をはじめとする貴族たちが国政や軍部の要職に就いている。その代わり貴族たちには、国内の秩序を維持し、繁栄させ、国民や領民を外敵から守る義務がある。  準王族であり公爵位であるマガンも、現役のころは元帥として軍を統帥し、隣国の侵攻からこの国を守ってきた。
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