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 これらの状況をまとめて簡潔に言えば、マヒワは社交界では公爵家のご令嬢で、武術界では剣聖なのだ。  とはいえ、剣術界にどっぷり浸かっているマヒワは、社交界の方は全くのほったらかしで、ご令嬢のほうの意識はすでにどこかに吹きとんでしまっている。 「廻国修行中に何かやってしまったの……かな?」  と多少不安に駆られたものの、罪を犯したのなら直接捕縛されるはずで、長官代理から直接の呼び出しはあり得ない。 「じゃぁ、なんだろう?」  ますます、わからない。  歩きながら、廻国修行でやらかした様々な出来事を思い出しては「ちがうなぁ」などと独り言をつぶやいているうちに、王都守護庁の庁舎に着いた。  マヒワにとって、ここは初めて来る場所ではなかった。  マヒワの実の父親であるイカルは、王都守護庁の長官であった。  いま、マヒワを呼び出している長官代理は、父イカルが長官になったとき、「是非とも自分の右腕に」と抜擢した人物で、名をトクトという。  長官であったイカルは、十三年前に起こった王族襲撃事件、のちに『宗廟事変(そうびょうじへん)』と名づけられた事件の際に警備の指揮を執っていたが、騒乱の中で生死不明になった。  その後、十三年間も生死がわからないので、世間では死んだと思われている。  宗廟事変の当日、マヒワは母と私邸にいたところを襲撃され、母を失った。  両親を失ったマヒワは、父イカルの剣術の師匠であるマガンの養女となった。  そして、マガンが両親の葬儀をしてくれた。  しかし、父の棺の中は空っぽだった。
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