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背後の気配で、教官はまだ扉の側にいることが判る。
つまり、マヒワの帰るときの反応を伺っているのだ。
マヒワはわざとらしく腹を立てている振りをして、荒い足音を立てながらその場を離れた。
ついでに、壁も蹴ってやった。
さぞ、満足しただろう。
もちろん、家宰のところに行くつもりなどない。
城門で警備していた衛士がグッフスの部屋まですぐに案内したことから、マヒワから衛士隊を自警団に派遣する話のあることは、すでに伝えられているものと思われた。
ということは、領主であるアドウル候からマヒワへの褒美であることも知っているはずである。
それにもかかわらず、この態度は解せない。
しかも、常識的に領地経営は領主の仕事であって、家宰の仕事ではない。
いくら領主が頼りないからといって、領地経営は家宰の領分だと口走ったところに、アドウル領のゆがんだ権力構造が見え隠れした。
――つまり、家宰と教官は同じ穴のムジナね。
領地で実権をにぎっているのはアドウル候にあらず、という認識で両者の考えは一致している。
二人のちから関係まではわからないものの、マヒワには反アドウル候の派閥の顔ぶれが見え始めた。
――さて、どうやっていじってやろうかしら?
腹が立った分、いつもより強く、いじり癖が出始めた。
実はもう一つ気になることがあった。
――なぜ、流れ者たちが全員死刑になるのか?
いくら村を襲って、自警団の団員を殺めたとしても、全員を死刑にするような反逆罪には当たらないはずだ。
気になって仕方がないので、マヒワは獄舎に足を向けた。
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