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 トクトも御光流剣術を習っていたらしいが、長官代理となってからは、稽古から足が遠のいたようで、修練場では見かけたことがなかった。  記憶の中のトクトより白髪が増えたような気がしていたが、マヒワがマガンの養女となってから一度も会っていないので、十年を超える歳月が流れていることになる。白髪が目立ち始めても不思議ではない。  どこに連れて行かれるのか判らないまま、マヒワはトクトと並んで歩いた。 「……そうですね。お久しぶりと言いたいですが、わたしは、成長なさったマヒワ殿を間近で見ています」 「あれぇ、どこかでお会いしましたっけ?」 「見事な仕合、感服いたしました……といえば、おわかりいただけますか?」  と含み笑いをしてトクトが、マヒワの方をちらりと見た。 「いやぁ、おはずかしい……」  マヒワがこめかみを右手の指で挟んで、悪夢を払うように頭を振った。  何のことはない、帝国特使との御覧仕合を見ていたのだ。  いや、王都守護庁の長官代理であれば、仕合の当日、会場で警備の指揮を執っていたに違いない。  その仕合とは――  この国の王は、王族全員の暗殺を謀った『宗廟事変』で奇跡的に一命をとりとめたものの、いまだに意識が戻っていなかった。  療養中の国王を見舞うために隣接する騎馬民族の玄蒼(げんそう)帝国から派遣されてきた特使の一行が、帰国に際して、羅秦国の武術家との仕合を所望された。
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