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日程もあとわずかとなり、帝国特使とも打ち解けた話ができるようになった宴席で、両国の間で武術の最強論に話題が移り、それまで武術が盛んな国として内外に喧伝していた羅秦国としては、引っ込みが付かなくなったらしい。
それで、急遽、仕合の場が設けられた。
帝国側の選手は、帝国特使の護衛士のうちのひとりだった。
仕合には、名人や達人といわれ、名のある武術家が幾人も挑んだものの、いずれも護衛士に大敗を帰した。
その仕合の最後の砦となったのが、若くして『剣聖』と謳われた、マヒワであった。
そして、あれだけ数多くの武術家が挑んで惨敗を喫した相手を、マヒワがいとも簡単に降したのだ。
非常に喜ばしいことだが、勝ち方に問題があった。
剣聖なのに、剣を遣っていなかったのである。
仕合の運びは、騎乗で短弓を放って相手を怯ませ、手にしていた槍を奪って、体術をもって投げ飛ばし、最後の極めという流れになった。
マヒワとしては、武術家として最善の手を考えた末に、実行したまでである。
帝国特使もいたく感動された仕合運びであったが、「剣聖なのに剣を遣わなかったのは如何なものか」と国内の重鎮たちからは苦言を頂戴した。
マヒワは頭を振って、忌ま忌ましい記憶を払おうとした。
「わたしは、感動した方ですよ。久しぶりに溜飲が下がる思いをしました」
――なら、思い出し笑いをしないでください!
とは、口に出せないマヒワのこころの叫びである。
「こちらでお話ししましょう」
と二人がたどり着いたのは、兵舎でいえば練兵場であったが、王都守護庁でも、同じ呼称だった。
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