願いごと

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 中学三年のとき、僕はバレーボール部に所属していた。メンバー入りを争っていた同級生が、春休みに一気に身長が伸びて僕は最後の大会の前にベンチ入りメンバーから外された。そのとき、すがるような思いでこの神社ににきて、「僕の身長を同級生より高くなるように伸ばしてほしい」って神頼みにきたんだった。急激に僕の身長が伸びた、なんてことはなかったけれど、その同級生は事故かなにかでケガをして競技を続けられなくなったことで、僕は運よくベンチ入りできて、少しだけれど試合にも出られることができたんだった。あの同級生には悪いけれど、運は僕に味方したんだ。  大学の推薦入試を狙っていたときも、一つの枠を三人で争っていたこともあって、「成績が伸びますように、三人よりも成績が上になりますように」って神頼みに来たっけ。最も、いきなり成績がぐんと上がるなんてことはなかったけれど、なぜか僕が推薦枠をもらえたんだよな。思い返しても本当に僕は運が良い。  そんなことを思い返しながらも頭の中は包帯だらけの由惟の姿で溢れていた。今朝もこの神社にお参りしてから出勤していた。由惟がこんなことになるとわかっていたら、由惟を守ってくださいと願ったはずだ。あれ、、今朝はなにを願ったっけ。そうだ、好きな人に告白して振られたって言っていたから、僕は「由惟の鼻を高く伸ばしてあげてほしい」って願ったんだっけ。それが、眼窩骨折(がんかこっせつ)はじめ鼻の周りの骨が陥没骨折してしまうなんて。  あれ?  違和感を感じた。僕が願ったのは由惟の鼻が高くなること。由惟に起こったのは鼻の周りの骨が陥没骨折。鼻の骨は奇跡的に無傷だった、これってつまり、鼻が高く伸びたのではなく、鼻の周りが低くなった。つまりに鼻が伸びた結果になったのではないか。  中学のときも、背が伸びたわけじゃない。あのとき同級生に起きた事故は、両方のひざ下を切断するというものだった、彼の身長が低くなったことで、結果的に彼よりも僕の背が伸びたことになっただけだ。  大学の推薦枠のときも、三人は内申点に関わる最後の定期考査に体調不良で参加していなかった。僕の成績が伸びたのではなく、三人の成績が落ちたのだ、  どれもこれも相対的に僕の願いが叶えられているだけじゃないか。 「由惟が元気になりますように。由惟の命が伸びて長生きできますように」  僕は今さっきした願い事を思い出して身震いした。この願いが相対的に叶うということは…… 「次のニュースです。日本中で謎の意欲低下や自殺が頻発しています、これは世界各国でも同時多発的に起こっており、各国政府は連携してこの異常事態の原因究明にあたっています」    
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