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 そんな背中を途中まで見つめていたものの車両内で体を倒し、仰向けになると目を隠すように腕を顔へと乗せた。  一方、空では風に運ばれた雲から仮面のように隠されていた月を地上へと顔を出していた。月光が差し、暗闇を掻き分ける。  そして丁度あの車両内へも宝石の輝きのように皓々とした光は差し込み、一人残された人影が露わとなった。燃えるように赤い髪と二つの犬耳、食い縛る歯の犬歯は人間より立派な男。同時に照らされた車内には物騒にも血が飛び散り、男の口元や腹部からも艶やかな鮮血が静かに床へと垂れ続けていた。  痛みかそれ以外か歯を剥き出しにし何かを堪える男。  すると男は顔に乗せていた腕を退けると握った拳を床へ向け力の限り振り下ろした。そして男前な容姿が新たに光を浴びる中、有りっ丈の声で男は叫ぶ。 「あああぁぁぁぁ!」  それは痛みというより、抑え切れない怒り。静夜に響く月までも届いてしまいそうな叫び声だった。  そしてそんな咆哮のような声が収まると辺りには怒声の分、虚しい沈黙がただただ流れた。
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