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「お楽しみいただけてるでしょうか? ミセス、リージェス」  中央の男性はその容姿同様の物腰柔らかな声で視線先の女性――テラ・リージェスへそう尋ねた。  だがテラはまだ整わぬ息のまま微かに眉を顰めながら返事はせず見上げたまま。 「今宵は貴方の為の宴。主役がそうではいけませんね」  言葉の後に男性が指をパチンと鳴らすとその音に合わせ辺りは一瞬にして暗闇へと包み込まれた。つい先程までのシャンデリアの豪華な明りが嘘のように静まり返ったその中で、テラはただ立ち尽くすしかなかったがそれは彼女が思っていたほど長くは続かなかった。  すると突然、暗闇の中で注目を強調する丸いスポットライトに照らされたテラ。その目の前にはテラス上にいたはずの男性の姿があった。男性はテラと目が合うとそっと手を差し出す。 「一曲、踊ってくれますか?」  だがテラの手は動かず下がったまま。  そんな彼女の周りで一つまた一つとスポットライトは点り、向かい合い曲が始まるのを今か今かと待つ仮面を着けた男女が部分的に照らし出された。 「さぁ」  柔和な微笑みを浮かべ男性はもう片方の手をテラの拒み動かぬ手へと伸ばし始める。少しずつ近づいてゆく手。そして男性の手を避ける為テラが一歩足を後方へ下げたその時――。
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