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 ガラスの割れる音が二人の間を駆け抜け、同時に辺りへは音により暗闇が吹き飛ばされたかのように明るさが戻った。あまりにも突然の出来事にテラは音に反応し顔を左側へ。彼女の視界がとらえたそれは、光を浴び煌めくガラス片と共に宙を進む人影。真っ黒なマントで顔を覆っている所為でその容姿は定かではないが、間違いなく真っすぐ二人の方へと近づいて来ていた。  その様子を(突然過ぎて追いつかず)微かな吃驚に顔を染めながらも見つめていたテラに対し、男性はまるでそれが予定されていた事であるかのように悠々とした口元へ動揺も緊張も走らせず一歩、大きく退いた。視線も目の合わぬテラに向けたまま。  そして男性がテラより離れた場所へ着地するのとほぼ同時に、人影はテラの傍へ着地し体を床で一回転させながら滑らかに彼女の前で立ち上がった。  タキシードにマント、無地の仮面が目元を隠し頭上には小山のような犬耳が二つ。テラに背を向け、男性と向かい合ったその表情に感情は無い。 「どうやらお相手は遅刻してきたようですね」  依然と悠々さを欠かさない男性の言葉が消えると、微かにマントを揺らしながら無表情の顔は後ろを振り返った。自分より少し大きなその人物を見上げ顔を合わせたテラは音を立てて息を呑んだ。  そしてほんの一瞬、固まった後テラはその細くも逞しい体へと抱き付いた。 「ユーシス」  それは安堵に包み込まれた温かな声。 「――テラ。悪い」  ユーシスは一言謝りながら彼女の体を抱き締め返した。
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