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故郷
「ねぇ、フロック……どうする?」
「何が……?」
「お城からの招待状の話よ」
「ああ……その件か。
行ったら、間違いなく! 俺とキバは、打首になるだろうよ」
「間違いなくね……だから、キバは隣の国に逃亡したらしいわよ」
「なに!? アイツ、俺を置いて隣の国に逃げるなんて、薄情な奴だ!」
「私達も隣の国に、逃げた方がいいんじゃないの?」
「俺の見た目もあるからな……
他の国に、長期滞在は難しいだろう」
「言われてみれば——それも、そうね……」
すると、フロックは少し考えた後……
「こうなったら、故郷にでも帰るとするか……」
「故郷……? あなた、この国の生まれでしょ? 故郷なんてあるの?」
「ああ……カエルの故郷が、実はあるんだ!
と、言う訳で——俺は故郷に逃げるから……達者でな! エリアル」
「えっ!? 私も連れて行ってよ!」
「何で? 別に、お前は姫様の事で殺される事はないだろ!?」
「分からないじゃない!
あんたらの代わりに、私が罰を受ける事にでもなったら、私! 死んでも死にきれないわよ!」
「確かに……貴族や王族なんて、自分達の気分次第で何でもするからな。
よしッ! 分かった。
お前も故郷に、連れて行ってやるよ!」
「じゃ、見つかる前に早速向かいましょう」
「善は急げだ! ついて来い! エリアル」
そして、フロックとエリアルは近くの池に向かった。
*
「こんな普通の池が、故郷なんて言わないわよね……
確かに、沢山のカエル達が集まっているけど」
「まぁ、黙って見てろ! このカエル達が、連れて行ってくれるから」
すると、カエルやオタマジャクシは池をグルグル回りだすと池の中心に渦が出来た。
「行くぞ! エリアル——」
「えっ!? 何処に!?」
フロックは、エリアルの手を掴むと渦の中に飛び込んだ!
「うわ〜〜!!!」
♪
♪
♪
『何処からか……カエルの歌が聞こえて来る』
*
エリアルが、気づくと……
そこは、岩と川——そして、大きな滝がある場所へと移動していた。
「ここは……?」
「俺達の故郷だ……厳密には、カエル達の故郷——カエル仙人の里だ!」
「ゔぅ〜〜ん……大丈夫!? その設定……」
「何が!? まぁ、いい。
とりあえず、じいちゃんとばあちゃんに挨拶に行こう!」
そして、二人はカエル達のじいちゃんとばあちゃんの元へと向かっていると……
「ねぇ、フロック……ここって!?
世界地図で言うと、何処ら辺の位置にあるの?」
「ああ、ここは……向こうの世界とは、別の次元に、ある場所らしい。
俺も詳しくは、分からないが……」
「へぇ〜……別の次元……それは、また凄いところね」
「俺も初めて眷属達に連れてこられた時は、戻り方が分からなくて苦労したよ……」
「今は、ちゃんも戻り方! 分かってるのよね……って!? あんた誰!?」
エリアルが気づくと、隣には——美形の青年が立っていた。
「あ? 俺だよ俺……」
「誰よ!!? フロックなの? 何で、人間の姿なの???」
「ああ、ここに来ると……前世の姿に、戻るんだった……そう言えば」
「前世の姿って、あんた!? 前世は人間だったの?」
「当たり前だろ!」
「いや、知らんし……あんたの当たり前を押し付けないでよ! 説明もされてないんだし、分かるわけないでしょ!」
『しかも、かなりのイケメンだし。何処かで、見た事がある顔をしているのよね……』
「言ってなかったけ!? まぁ……あっ!!!
じいちゃん、ばあちゃん! 久しぶり!」
そう言ったフロックの目線の先には、青空のした外で、こたつに入りながらお茶をすする。
年老いたヨボヨボの二匹のカエルが挨拶をして来る。
「おお〜久しぶりじゃな。フロック……」
「あんたも、こたつに——お入りよ……」
そう言われて、二人はコタツに入ると——出されたお茶をすする。
そして、少しの沈黙の後……エリアルが話し出す。
「初めまして、私はフロックの仲間のエリアルと言います」
「おお〜これは、エルフのお嬢さん……ご丁寧に、どうも……何も無いところですが、これでもどうぞ……」
そう言って、出されたのはバッタだった……
「…………いえ……ちょっと……お腹がいっぱいで………」
「おおー! 俺の大好物だ!!! じいちゃん、ばあちゃん! ありがとう」
そう言って、イケメンのフロックがバッタをムシャムシャと食べ始めた!
「ちょっと、あんた! 何やってんのよ!!!
人間の姿で、バッタを食べるなんて!!!」
「何言ってんだ!? これは、イナゴの佃煮だぞ……普通に食べるだろ!」
「私には、バッタにしか見えないわよ!
よく食べれるわね! そんなモノ!!!」
「すまのぉ……こっちの世界で、フロックが唯一、一緒に食べれるモノだから……つい」
「良いんだよ。じいちゃん、ばあちゃん……俺は、これが大好きなんだ!」
「……ごめんなさい。
つい、口が滑って」
「エリアル! じいちゃんとばあちゃんに、謝れ!!!
そして、イナゴを食べろ!!!」
「……それは、ちょっと………」
「良いんですよ。人間と私達では、食べる物が違う事は分かっていますから……フロックも……人間姿に戻らなければ、同じ物が食べられるのにね……」
「ごめんよ。じいちゃん、ばあちゃん……」
「そう言えば、あんたは何で!? 人間の姿に戻るの?」
「よくは知らんけど、普通は自然エネルギーが、溜まるはずなんだが……俺の場合は、エネルギーが吸収? 放出されてしまうらしい。理由は、分からん!」
「へぇ〜……普通とは、逆って事?
前世が人間て事と何か関係してるのかしら?」
「知らねーけど、まぁ……ここは、安全だからカエルの姿に、ならなくとも何も問題ねーけどな」
「人間の体よりカエルの体の方が強いの?」
「当たり前だろ! 強くなる為に、もらった体なんだから」
「今、凄いことを言ってるわよね。
強くなる為に、カエルの体をもらったって……誰にもらったの?」
「何だ!? お前もカエルの体、欲しいのか?
物凄く良いぞ! 舌は伸びるし、体液は出るし万能だぞ!!!」
「いや、そんなんで喜ぶの……
あんただけよ! 私は、お断りするわ」
「それなら……そんなに長くは、滞在出来んな。
お前さんたちは、どのくらい滞在するつもりなのじゃ!?」
「何故ですか?」
「何故って、それは……」
「いや、ほとぼりが冷めるまで——滞在しようと思っているんだけど……無理なの?」
「無理って事も無いが……エルフのお嬢さんは、初めて来たから自然エネルギーの吸収が早いみたいじゃからのぉ……
一週間も居たら、元に戻れなくなってしまうかも知れんな」
「共に、戻れなくなる? どう言う事……?」
「なら、5日くらいは大丈夫か……」
「ねぇ……ちゃんと説明してよ!」
「姿形が……カエルに、なってしまうのじゃよ」
「いや……そんな訳ないでしょ!」
そう疑うエリアルに……
「そうか……なら、今このイナゴを見てどう思うのじゃ?」
「イナゴ……それは、別に………………美味しそう……なんで!?」
「少しずつカエルに近づいて来ている証拠じゃ……」
エリアルは、自分の顔を触ってみる。
「えっ!? ヤダ! 本当に、カエルになってる!?」
「鏡を見ますか?」
「貸してください!!!」
そして、鏡を見たエリアルは驚愕する。
「…………えっ…………ほぼ、カエルじゃない。
元に、戻るのよね……」
「今なら、元の世界に戻れば——簡単に戻れるが……」
「が……が……何よ!?」
「そうか? いつもと、そんなに変わらなくないか……?」
「いや、変わるでしよ!!! カエルじゃない……嫌よ! カエルなんて、絶対に嫌!」
「お前、失礼だな!」
「そんな余裕ないわ……」
「カエルになったら、強くなれるぞ!」
「嫌だ! 絶対に嫌だ! そんなんだったら、強くなりたくない」
「まぁ、すぐにどうにかなる訳では無いから
一度、落ち着いてイナゴでも食べたらどうじゃ……」
「……いただきます……………」
そして、エリアルはイナゴをムシャムシャと食べ始めた。
「あ……もっと、カエル化が進んだ……」
「えっ——!? なんで……イナゴを食べたから?」
「これは、戻れなくなるのに1週間も要らんかも知れんな……」
「何で!? 大丈夫!? 私、人間に戻れるのよね!?」
「…………」
「えっ!? なんか言ってよ! 怖いじゃない」
「…………」
「フロック……あんたが連れて来たんだから、ちゃんと責任はとってよね!」
「…………急いで帰ろう!」
「えっ!? もう、もう少しいたい気持ちも
あるんだけど……なんか、ここ居心地が良いのよね」
「絶対に、もう帰った方がいい!!!」
「フロック……早く帰りなさい!」
「分かった! じいちゃん、ばあちゃん……ごめん。
俺、もう行くよ……」
「ああ……また、いつでも帰って来い!」
そうして、フロックはエリアルの手を掴むと——走り出した。
「くそー……もっと、ゆくっりしたかったのに
クソ女! お前のせいで……」
「私だって、もっと——ゆっくりしたかったわよ!」
そして、二人は滝壺に飛び込むと元の世界へと戻った。
故郷への滞在時間——約1時間弱……
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