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オレは急いで鞄を探った。攻め様の取扱説明書が出てきて「属性 昭和の熱血教師」と書いてある。
さっきの根性論やら気合いやらはこのせいか。さすが昭和。
「まあとにかく、酔いつぶれるまで飲むのはやめた方がいいですよ。肝臓にもよくないですし、将来体を壊します」
「飲まずにいられるかっつーの」
怒りが再燃し、オレは昨日のことをあきらに話した。
「それは確かに災難でしたね。彼とはどこで知り合ったんですか?」
「クラブのゲイナイトで」
「クラブ? つまり不良の溜まり場ですね。そんな場所で知り合う相手はろくでなしに決まっています」
あきらの断言にオレはあわてて現代常識をかぶせた。
「いやいや、普通の遊び場だよ」
ちょうど前の彼とケンカ別れしたとかで、会ったその日に部屋に転がり込んできたのだ。
「それはちょっと無防備すぎませんか? 同棲するならもっと互いを知ってからじゃないと」
あきれた顔をするあきらにオレは言い訳する。
「身元はわかってたよ。学校の後輩だったから」
オレは幼稚舎から大学までエスカレーター式の私学に通っていた。何年もほぼ同じ顔ぶれで過ごすから、学年が違っても全員が顔見知りだ。
あいつは中等部から入ってきて、好みの顔だったからすぐに覚えた。
「なるほど。顔に釣られたわけですか。でも一緒に住む必要はなかったのでは?」
「そうだけどさ。行くとこないっていうのに、追い出すのはかわいそうだろ」
部屋はあるし体の相性もいいし、特に追い出す理由は思いつかなかった。
もちろん、甘やかすとつけあがるとわかっていたけど、あいつはおねだり上手でついつい言うことを聞いてしまっていたんだよな。
「それはセナも悪いです」
「何がだよ?」
「甘やかすとつけあがるとわかっていて、衣食住の面倒を見たのでしょう? そういう人は寄生できる相手だとわかると際限なく寄りかかってきますよ。つまりあなたはいいカモだったということです」
ズバリと言われて、温厚なオレもさすがにムッとした。
「わかってるよ。そのくらい」
いつもそうだ。オレとしてはちゃんとつき合っているつもりでも、相手には都合がいい男と思われてしまう。
「オレは本命にはなれなくて、いつも誰かのスペアなんだろ」
「そこまで卑下しなくても。セナは見た目もキレイだし素直で優しい性格です。ただ、生活態度はよろしくない。そこを改めれば、きっと幸せになれます。ですが、そのためには自制や我慢や努力も必要です」
オレはぽかんとあきらを見た。まじめな顔して何言ってんだ。ああ、そうか、これが熱血教師か。
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