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「私の協力が必要ならそのための協力は惜しみません」
「そ、それはありがと」
真面目さに若干ビビりながら、そろそろと立ち上がる。
「ちょっとシャワー浴びて、なんか食べる。あきらは食事しないんだっけ?」
「はい」
背筋を伸ばして座っているあきらから逃げるようにシャワーを浴びて、レンジでチンするパスタを食べた。その間、あきらはテレビを見ていた。
現代常識が身に着くといいな。
コーヒーを飲んでいるうちに、二日酔いの頭痛も治まってきた。
パラパラと取扱説明書を読むと、攻め様はオーナーを慰撫するのが最大の使命で、ようするにひきこもりだ。社交性はあまりないらしい。つまりほかの人には懐かない。
毎日、決まったドリンクが食事になり、月に一度メンテナンスが必要。
属性によっては外出が好きなタイプもいるようだ。娯楽や食事を与えるのは自由。何より大事なのは「愛情」を与えること、とある。
愛情? そんなの、どうやって与えたらいいんだ? 犬でも飼ったと思えばいいのか?
ていうか、まずは着る物がいるよな。
「服買いに行こうか」
あきらはオレより十センチほど身長が高いし、スーツも買いなおさないと。手洗いしたらしくスーツはベランダに干してあったが、オレが汚したのにそのまま着せるのは嫌だった。
攻め様はオーナーの提案には基本的に従うようにできていて、あきらは素直についてきた。貸した服は若干丈が足りないが、そこまでおかしくはないのでほっとした。
「初めてのデートですね。うれしいです」
そうか? この程度でデートとかいう?
あきらはしっぽでも振っていそうな笑顔でオレの横を歩いている。
ひとまず駅前のカジュアルショップで部屋着を見ていると、あきらがいきなり側にいた男子高校生の手をつかんだ。
「待ちなさい、君」
「な、なんだよ」
制服姿の男子が驚いた顔であきらを見上げている。
「鞄に入れたものを出しなさい」
「……」
「万引きは犯罪ですよ」
低い声でささやくように言う。
「こんなことをしたとご両親が知ったら悲しみに暮れるでしょう。学校にも連絡が行くし、君の将来がつぶれます。それに盗んだ服を着て、君は本当に満足するのですか? 良心は痛みませんか?」
言っていることは正論なのだが、男子高校生はきょとんとした。そのあとすぐに眉を寄せて剣呑な顔になる。
「何わけわかんないこと言ってんだよ」
腕を振り払った男子高校生は大股で店を出ようと歩いて行く。その背中にあきらはさらに言った。
「本当にいいんですか? すべての行いはご先祖様が見ていますよ」
男子高校生は薄気味悪そうにあきらをちらりと振り返り、一目散に駆けだして行った。
「私の力不足のようです。改心させることができませんでした」
「いや、しょうがないんじゃね」
周囲の注目を浴びたオレは急いであきらの手を引いて、その店を出たのだった。
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