3 属性 令和の料理男子

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3 属性 令和の料理男子

「お気に召しませんでしたか?」  あきらを受け取った店主は顎に指をあてて首を傾げた。 「いえ、そういうわけじゃなくて。ちょっと昭和の価値観はオレに合わない気がして」  エッチしたくなくてと言えなくて、オレは言い訳しながら愛想笑いをする。 「そうでしたか。属性は確かに相性がありますからね。それなら、こちらの攻め様はいかがでしょうか?」  いや、もういらない。オレには理想の攻め様の研究は無理だったんだ。  あわてて首を横に振ったが、店主はにっこり笑って一人の攻め様を勧めてきた。 「こちらは「令和の料理男子」ですので、感覚的には合うかと思います」  見た目は可愛い系の顔立ちで、サマーパーカーにハーフ丈のデニムという服装もイマドキだった。明るめの茶髪にぱっちりした琥珀色の二重の目で、にこっと笑う。 「よろしく、オーナー。今日から飯の心配はしなくていいよ。俺がちゃんと面倒みるから」  親しみやすい雰囲気だけどぐいぐい来るな。 「いや、でもオレは」 「オーナーが楽しく過ごせるよう頑張るから、お試ししてみてよ」  断ろうとしたら、眉を下げてそんなことを言う。意外と尽くし系なのか? 「今回の交換は無料ですし、彼はとても人気のあるタイプですから、ぜひどうぞ」 「いや、でもほんとにオレは」 「食べたい料理ある? 大抵のものは作れるし、わからなくてもレシピくれたら作るよ」  なかなか魅力的な申し出ではある。料理できないオレにとっては、彼氏の手料理は憧れのシチュエーションの一つだ。 「どんな攻め様が合うか、試してみないとわかりませんでしょう?」  店主にもそう畳みかけられ、オレは「令和の料理男子」の攻め様を連れ帰ったのだった。 「へー、いいとこ住んでるねー。セナってお坊ちゃま?」  マンションの部屋をぐるりと見回して、攻め様はにこにこしている。 「まあ、そうかな」 「嫌いな料理はある?」 「いや、これと言って」  琥珀と名付けた攻め様はうきうきとキッチンに入って、買って来た食材を冷蔵庫にしまい、棚を開けてチェックを始めた。 「鍋とフライパンが一つずつしかないのか。じゃあ、肉焼いて、パスタとスープでいい?」 「すごいね、うちでそんな料理食べたことないよ」  そして出てきた料理は本当においしかった。なるほど、胃袋を掴まれるってこういうことか。オレは料理しないし、相手もできないことが多かった。 「琥珀は食べないの?」 「気にしなくていいよ。適当につまむから」  琥珀はオプション設定のワインを飲みながら、肉をちょっとだけつまんだ。
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