暖簾

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晴れ渡る晴天に愛車も俺も気分爽快 邪魔する者のいない山道を軽やかに走破する 目的地は絶品のラーメン屋 職場の先輩に「山奥にあるのに行列の絶えない名店だ!アッサリとしながらコクのある塩味でチャーシューも旨い!」なんてベタ褒めのオススメをされて、そんなに言うなら行ってみようとドライブがてらやってきた 峠を越えればキャンプ場や別荘地 建物はあるが人の気配がしない独特の雰囲気を横目に進んでいけば、噂のラーメン屋が堂々登場 しかもどうやら当たりを引いたらしい 駐車場を見渡しても車は数台 行列どころかガラガラで待たずにすんなり入れそうだ 来店の証拠に入口の写真をパシャリ これで本当に行ってきましたと先輩にウキウキで自慢できる 「いらっしゃいませー カウンター席どうぞー」 入店すれば厨房に店主らしい親父が1人 ホールにはオバチャンが1人の客8人 メニューを開けば塩ラーメン・塩チャーシュー麺・炒飯・半炒飯・餃子とシンプルな品数に笑みがこぼれた これぞ間違いなく自信の表れ 値段も手頃でそれほど高くなく、純粋に味で勝負しているのがよくわかる どれどれまずは基本の塩ラーメンをもらおうかな 「お待たせしました ごゆっくりどうぞ」 すいてるのもあり提供も速くありがたい ふむ 確かにコレは美味そうだ 澄んだ黄金色のスープ ほのかに赤みを残したチャーシュー ちょこんとメンマも添えられている 期待に胸を膨らませて一口すすれば まっっっっずい なんだこれ??こんなのよく客に出せるな?? とんでもない薄味のスープでこんなのほとんど白湯同然 言われてみれば出汁や塩味を感じるが、気のせいと言われればそれまでだ 麺もボサボサでなんか嫌 すすりづらいし喉越しも悪いし、どことなく小麦臭いというか変な風味がついている チャーシューも無味でパサパサで顎だけ疲れる拷問器具 かろうじてメンマは美味しいが、コレは普通に市販の商品だろ 思わず店内を見渡せば他の客も似たりよったりの微妙な表情 顔をしかめて「これなんかアレよね?」なんてヒソヒソ話すら聞こえてくる こりゃあいったいどういうことだ 先輩に一杯食わされたか? どうにか一杯完食し不満タラタラでスゴスゴ退店 うーむ 確かこの先にパン屋があったな 併設のカフェでコーヒーも飲めたはず 口直しにそこへ行こう 「で、結局そっちのパン屋の方が美味かったです 先輩も行ってみてくださいよ」 「アッハッハッ そうか!マズかったか!」 明くる日の出勤日先輩に恨み節を叩きつける しかし当の本人はカラカラと楽しそうに笑うだけ これはやはり罠だったか やりやがったかこの畜生 「店先の暖簾はどんなだった?とんでもなく短かったか?」 「……暖簾?」 「入口にちょこんとかかってただろう」 「いや全く そんなのなかったですよ」 「おっ そりゃあとんでもない大外れの日を引いたな いやむしろ大当たりかも」 「一体どういうことですか!? さっきから意味ありげにヘラヘラと!」 「まぁまぁそう怒るな怒るな あの店はな、調子が良いと暖簾が伸びるんだ」 「……はぁ??? いい加減にしてくださいよまた騙そうとしてます?」 「ほら証拠」 まるで紋所のように見せられたスマホには確かにあのラーメン屋 そこには地面スレスレまで伸びた超ロング暖簾が映っていた 「……コラ画像?」 「たかだかお前を騙すためだけにそんな手間暇かけてられっかよ」 言われりゃ確かにそれはそう そういや俺も写真撮ったなとスマホを開けば 「あっ ホントだ」 「アッハッハッハ どうにもアホみてぇな店構えじゃねぇか」 「なんだこれ なんだこれ??」 先輩の写真と見比べてようやくわかった 入口の上部に棒だけが乗っている しかしそこから垂れ下がるはずの暖簾はどこにもなく、これではまるで物干し竿 「でもこんなの普通わかりませんか? 暖簾も無いのに棒だけ乗せるなんてそんな間抜けな」 「店側は何も気づいてないんだ これは客しかわからない」 「なんだそれ」 「暖簾が変わるから味がわかる そんな変な店なんだよ」 「だとしてもあんなマズいラーメン出してちゃ潰れるんじゃ」 「ところが案外潰れないんだわ」 「当たりの日?が本当にあるか知りませんが、外れの日は売上伸びませんよね? 俺みたいに騙されて入店する犠牲者はいるかもしれませんが」 「世の中にはマズいラーメン愛好家もいるのさ 暖簾が短い日を狙ってわざわざ来店する物好きがね」 「そいつらが諸悪の根源だわ」 「暖簾も行列も伸びてない!こりゃあ今日は酷いはず!うわっ!マズい!やったー!!」 「くたばれボケナスが」 「それでギリギリ黒字を保ち、当たりの日には売り上げも伸び、そうして細々と続く隠れた名店」 「そう言われても信じられませんね だって実際マズかったし」 「あぁもう剥き出しの猜疑心に心が痛むなぁ 仕方ない、今度の休みに2人で行くか」 「はぁーい?」 「そんな間延びした返事をするな お前を騙したままでは寝覚めが悪い」 なに言ってんだこの人は どう考えてもデートの誘いだが真偽不明 暖簾に腕押しでホントにわからん さらには自分の気持ちも真偽不明 恋心だとか面倒な問題に答えを出すのはまた今度 再開未定でとりあえず延期 それでも それでもなんとなく 暖簾が伸びてなければいいなと思ってしまった
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