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女性が瞬きをすると、おじいさんはいませんでした。
ビックリしていると、女性は自分の手の中に小瓶が握りしめられていることに気づきました。
一体これはなんなのでしょう?
普通なら、見知らぬ怪しいおじいさんからもらったものなど捨てるでしょう。けれど、正常な思考などもうすでに持ち合わせていない女性は、翌朝、その薬を夫がいつも飲むコーヒーに混ぜました。
おじいさんの言葉を信じていた、というわけではありません。
ただ、なんとなく、そうした方がいい、と感じたから実行したのです。
毎朝コーヒーを飲むのは女性の夫の習慣でした。
だからでしょうか。
用意したコーヒーを何の疑いもなく、夫は飲みました。
すると、夫の頭から突然角が生えました。
ただ、それは鬼のようなとがったものではありません。
一本ですか、果たして「角」と言っていいのかわからない形のものが生えたのです。にょきりと、突然に。
その形は、どこからどう見ても、ハートなのです。
先っぽがハートになった、いや、そもそもハートが生えた、と言った方が言葉としては正しいかもしれません。
しかもそれだけではありません。
いつものように、視線を合わせてくれない夫に女性がいつものように「いってらっしゃい」と声をかけた時です。
夫の頭から生えたハートは、にゅいん、と縦に細長く伸びたのです。
「え」
思わず声を出してしまった女性に夫は振り向きました。
女性は何かを言わなければと思いましたが、それよりも夫の頭のハートが気になって仕方がなく、何度も目をこすって確認しましたが、間違いなく、ハートは縦に伸びていました。
しかも、女性が目をこすった後さらに伸びているのです。
「え、え?」
「何なんだ一体、鬱陶しい」
夫の冷たい一言に女性は身体を強張らせましたが、勇気を振り絞り「あ、あの、頭に、何か、えっと、あって、その、とりあえず、これを見ていただけませんか」と、玄関の傍にある姿見を指しました。
夫はすぐに覗き込みました。
「頭にか?何もないが」
「え」
言われて、女性はハッと思い出しました。
そういえば、昨夜、夢だと思っていたおじいさんは言っていました。
『おぬしにしか見えない』と。
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