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「あ、あの、ちょっと、失礼します」
あまりにも不思議なことが立て続けに起こっていて、女性は冷静でなかったのでしょう。「一体何なんだ!」と声を荒げる夫に近づき、頭のハートに触れてみました。
それはぷにぷにで柔らかく、ちょっと気持ちのよい感触でした。
「わぁ」
「なんだ」
まさかの感触に思わず声を零した女性でしたが、また夫にぶっきらぼうに言われて女性は我に返りました。が「えっと、たまにはスキンシップとってみたくて」と言って思い切ってぎゅっと抱き着きました。我ながら苦しい言い訳であるし、今までの夫の態度を思うときっと振り払われるだろうと女性は覚悟をしていました。
ところが夫は、暫く黙っていました。
そうして数秒後「気は済んだか」という言葉だけが投げられました。
それは、なんだか、今までの言葉の中で優しさを帯びていたことに女性は驚きました。
「あ、は、はい、いってらっしゃい」
予想外のことがことごとく起こり女性は戸惑いましたが、ひとまず慌てて離れました。
そうして頭を見たら、夫の頭のハートはまた伸びていました。
縦に細長く、天井につきそうなほどに。
「ああ、いってくる」
言葉はぶっきらぼうなのに、ハートは細長く伸び続ける。
最早ハートと言っていいかわからないほど、細長く縦に伸びているのです。
玄関を出る時に間違いなくぶつかって、みよん、とハートがしなっていて明らかにひっかかっていましたが、スポンジのように柔らかいのか一瞬ぺしゃんこになってからまた元の細長いハートに戻って、夫はそのまま家を出ました。
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