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あれが、変化なのでしょうか
余りに滑稽で、あまりに可笑しくて
そして、愛があって変化がある、というのが本当なら
あれが、その変化というものならば――
「あ、……ははははは!」
女性は笑いました。
久しぶりに腹の底から笑いました。
気づけば眼のふちに涙が溜まるほどに。
同時に、夫が不器用なのを思い出していました。
思えば付き合い始めた時から、彼は優しいけどいつも不器用だった。
そして照れた時は絶対に目を逸らす。
それが可愛くて惚れたのだ。
「何故、私はそのことを忘れていたのかしら」
過去を思い出してみると、夫の元々の性格を思い出してみると今まで悩んでいたことが全てばかばかしく思えてきていました。
女性は、その日部屋をいつも以上に掃除し、力を入れた料理を作りました。
そうするうちに、夫が仕事から帰ってきました。
そういえば、夫は一切寄り道せず、残業もせず、真っ直ぐ帰ってきてくれるから帰りが早いのだということも、女性はその時に漸く気づきました。
そして帰ってきた夫を見ると、相変わらず、ハートは細長いままでした。
いつまでこれは伸びるのだろうか。
そして、伸びる限界はどこまであるのでしょうか。
気になった女性は、少し悪戯心が芽生え、帰ってきた夫に抱き着きました。
「おかえりなさい!」
「ぬわ、なんだ急に!」
夫は怒鳴ったが、ハートは伸びていました。
もう、ハートとは言えませんが、ギリギリハートには見える縦に細長いものでした。
そこで、女性は気づきました。
よく見ると、夫の耳が赤いということに。
(そうか、私が積極的になればよかったんだ)
ストン、と何かが腑に落ちた女性は、久しぶりに夫に向かって笑いました。
「今日、一緒に寝てほしいんだけど、だめ?」
「後悔してもしらんぞ」
天井を突き抜けていく勢いでびよんっと伸びていくハートを見ながら、女性はこの人は俗にいう「ツンデレ」なのだとわかると、これまでの暴言も、ぶっきらぼうな態度も、冷たい視線も、何もかもが可愛く見えて「一緒に寝れない方が後悔ちゃうから、毎日一緒に寝ましょう」と笑って言えていました。
「今日のお前は一体なんなんだ!」
そう言って頬まで赤くなる夫に、女性は愛しさがこみあげて、頬にそっと口づけました。それに勿論夫は「いきなり不意打ちするんじゃない!」と怒鳴っていましたが、最早その怒鳴り声も愛しくておかしく感じていました。そして、その日素敵な夜を過ごした女性は、心地よい夫の腕枕に頬を摺り寄せながら、あの夜のおじいさんにそっと心の中でお礼を言いました。
めでたし、めでたし。
fin
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