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「なんかこの道って人生みたいだよね。山あり谷あり」
「ちょっと絵美。疲れてるときに人生語るのだけはやめよって昔誓ったじゃない」
「ごめん茉莉。人生って言えばなんか楽になるような気がして」
気のせいだ。いくら人生と諭しても私たちの膝はさっきから爆笑している。
何度坂を上ったかわからない。坂を上っては下り、下っては上る。なんかそういう地獄あった気がする。気のせいかも。
「ねえ疲れちゃったしジュースでも飲まん?」
「いーね」
絵美は道路脇に傾いている自販機を指差して、私はそれに頷いた。喉がからからだ。
歩み寄ってみれば、自販機は無事に稼働しているようだった。
「どれにしよ」
「スカッとしたいね」
絵美はレモンスカッシュのボタンを押し込んだ。黄色の缶がごとりと落ちてくる。
確かにさっきから意味不明なことを押し付けられてばかりで頭がもやもやしていた。炭酸でしゅわっとリセットしたいかも。
私もレモンスカッシュのボタンを押した。
えんじ色の缶がごとりと落ちてくる。
「もしかして茉莉っておしるこで水分補給できるタイプ?」
「そんな人類この世にいないよ」
おかしいな。ちゃんとレモンスカッシュ押したはずなのに。
しぶしぶおしるこの缶を手に取ろうとして、その違和感にようやく気づく。
ほぼ同時に気づいたらしい絵美が「あれ?」と言葉を発した。
「もしかしてこの自販機って一人で散歩できるタイプ?」
「そんな自販機この世にいないよ」
目の前の自販機は私たちから遠ざかるように少しずつ動いていた。
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