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「……ねえ茉莉、見て」 「わーお」  さらに何度か坂を上って下りると、今までで一番大きな坂が私たちの前に立ちはだかった。  すでに私たちの両脚はぱんぱんに張っていてずいぶん重い。  できれば回り道をしたいところだが、この道を通らなければ私たちの住む地域には渡れない。他の道もどうなってるかわからないし。 「いっそここらへんで野宿でもしちゃう?」 「朝になったら学校に着いてたりしてね」 「便利な道路だわ」 「ほんとに」  絵美は苦笑して一度自分の足元に目をやる。  それから少しの間があって、彼女は勢いよく顔を上げた。 「──でも、やだ」  一言そうつぶやいて、絵美は急勾配の坂道を踏みつけた。  そのままずんずんと力強く上っていく彼女を慌てて追いかける。  容赦のない傾斜に薄い筋肉が悲鳴をあげた。太ももに重りでもぶら下げているようだ。  ビニール傘を杖代わりにして前を行く絵美になんとか追いつく。彼女も大してスピードは出ていなかった。 「どしたの急に本気出して」 「いやもうここ渡んなきゃ帰れないんだから、やるしかないかなって」 「帰宅へのモチベすごくない?」 「そりゃそうでしょ」  絵美の横顔に一筋の汗が伝った。  乱れた息と前髪を整えることもせず、ただ前だけを見て彼女は一歩ずつ確実に進んでいく。 「帰りたいよ。家だもん」
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