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 なんとか坂道を上り切った私たちは、その場で少しだけ休憩を挟んでそれぞれの帰路へと別れた。  脚に疲労が溜まっているのを感じるが立ち止まるわけにはいかない。道はまだ伸び続けている。 「じゃあね茉莉。お互いちゃんと帰ろうね」 「うん、じゃあね」  一番の難関をクリアした達成感からか、絵美は別れ際に今日一番の笑みを見せた。  私はうまく笑えないまま歩きはじめる。重たい両脚を引き摺るようにしながらゆっくりと進んでいく。  どうして私はここまでして家に帰ろうとしてるんだろう。  こんなにたくさんの坂道を上らなきゃいけないのに。本当に家まで辿り着くかもわからないのに。朝はあんなに帰りたくないと思ってたのに。  息が切れる。足が痛い。力が入らない。  それでも永遠と続くかのような坂道を上っては下り、上っては下る。  どうして私はあのときめちゃくちゃになった町を見て、帰ろうって思ったんだっけ。 「茉莉ー!」  自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、アスファルトを見つめていた私は顔を上げた。  緩やかな起伏の向こう側に見知った顔がある。  お母さんだ。 「よかった無事で。急に家が傾いたと思ったら町全部こんなんなってんだもん。家出たらお隣の山田さん家もどっか行っちゃっててびっくりよ。なんなのこれ。心配になって迎えにきちゃった」  坂の頂上で合流した途端、壊れた水道みたいに喋りだすお母さんを私は眺める。  朝に見た格好そのままで、少し息が切れていた。焦って飛び出してきたからか、単に運動不足だからか。  寝癖の位置も朝とまるっきり変わってなくて私は少し笑ってしまう。
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