二話

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二話

  「はは……見てるか一般市民!あれが国家の狗代表、特殊急襲部隊だ!SATつったほうが分かりやすいか?」  頬は痩け、爆弾が巻き付けられた体は細く枝のようにさえ見える。けれど落ち窪んだ眼光は明確に俺達を睨みつけ、怨讐の果てを見据えているように思えた。 「お前らはよぉ、俺みたいな哀れな犯罪者捕まえて金貰ってんだろぉ。俺みてぇな貧困層からも搾り取った税金でよぉ」 「そうだ。それが仕事だからな。加えていえば犯罪者を逮捕する行いは国民の利益であり、我々の給金が税収から支払われるのは至極当たり前だ。が、お前の意見や境遇には思うところもある。今ならまだテロ等準備罪で実行よりもいくらか刑罰は軽くできる。はやくその起爆スイッチを捨てるんだ!」  交渉役の刑事が声を張り上げる。けれど、犯人は一向に起爆スイッチから手を離そうとはしないどころか、より握る力を加えたようにも見えた。 「うるせぇ!お前らにゃわからねぇ!親に恵まれ、環境に恵まれ、社会に恵まれたお前らには、絶対にわからねぇ!」 「……ピーピーうるせぇな全く……なんにしても犯罪に手を染めていい理由なんてある訳ねえだろうに」 「……そう、だよな」  隣で臨戦態勢をとりながら声を潜めて相楽は言う。あってはいけない。わかっている。そう思っていながら、どこか犯人に同情、あるいは共感してしまっている自分がいることを、俺は否定できないでいた。  犯人はさらに顔を赤くして続ける。 「もう十年前とは違うんだ!今は二千四十四年だ!ギリギリのところで保たれていた機会の平等さえ今はもうない!」  ――――……ああ。   「国家は貧困に目を向けないままだ!犯罪発生率は年々上昇してる。あちこちでアングラな組織が出来ていっている!」  ――――ああ、こんなにも。   「金持ちには金をばら撒き、貧しいゴミは見捨てられる!なんなんだこの国は!腐ってるのはどっちなんだよ!いい加減――――――」  怒りのままに振り上げられた右手が、赤い血を吹いて起爆スイッチを落とした。それと同時に、左手に掲げられていたスマホにも銃弾が貫通し、機能を失ったスマホがその画面から光を落とす。
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