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一話
やってらんねぇよな。
昼下がりの訓練施設内にある休憩室で弁当を食い終わった同僚の相楽は、そんなふうに愚痴をこぼした。
「だってよぉ、命がけでこの国を犯罪から守ってんだぜ俺達は。なのに給料は大したことねぇし、重犯罪者をとっ捕まえたって誰かから喜ばれるわけでもねぇ。国民どもはそれが当たり前だと思ってやがる」
やってられるかよ。
もう一度そう言って、大きくのけぞり軋む椅子に体を預ける。それから、凛汰はどう思う、とこちらへ投げかけた。
「どうって、それが仕事だしなぁ。誰かから褒められるとか給料も大事だけど、それ以上に今誰かを助けてる実感のほうが、俺にとっては大事かな」
自分で行っていてむず痒くなりそうだが、誠心誠意、全て本音である。警察官を目指したのだって、子供の頃に誘拐されたのを助けてくれた警察官の背中に憧れたからだ。わりとありふれた理由だとは思うけれど、それほどには、あの大きな背中は安心感と憧れを与えてくれた。
そう思っているのに、己の口から吐かれた言葉に喉が痛むような気がした。
「はいはい、さすがSATの良心だよ。相変わらず凛汰さんはオトナデスネー」
そう不貞腐れた相楽は、いっそう深く椅子にもたれかかった。
あはは、と愛想笑いを浮かべ、自販機で購入した水に口をつける。と同時に、インカムから上官の声が鼓膜を通った。
『国会議事堂前にてテロリストが爆弾を体に巻いた状態で動画を配信している。即時現場に出向き指示通りの行動をとれ』
なにともなく、俺達は走り出した。ガチャガチャと鳴り響く銃器が廊下内を埋め尽くし、次々に装備を着込んだ隊員が集結する。
目立たないよう黒塗りのバンに乗り込む。即時発進したバンの中で作戦が練られ、俺と相楽、他数名が犯人を取り押さえ、情報にある起爆スイッチを落とす狙撃手とサポートの二名でチーム分けがなされた。
バンは加速を重ね、五分もしないうちに現場へと到着する。そこには情報どおり右手に赤い起爆スイッチを握り締めた犯人が、全身に火薬が詰まったらしき袋を吊り下げ、導火線を体にはわせた状態で左手のスマホから配信を行っていた。
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