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黒猫型BOSとの出会い
眠気がぶっ飛んだ。驚いて心臓が止まるかと思った。うおおああ、とよく分からない叫び声をあげてしまう。
冷蔵庫から飛び出た丸いヤツは、俺の胸くらいの背丈の黒猫。くろねこ? 二足歩行でクリーム色のダボッとしたオーバーオールを纏っている。そして赤い首紐と小さな鈴。俺を見るとでっかい口を開けて、
「帯田君、びっくりしないでください」
とドラ猫の声でしゃべりかけてきた。
「な、なんだお前は」
猫が喋りやがった。いや厳密にはそれ以前の問題なのだが、俺はようやくのけぞって後ずさり、後ろの壁にぶつかる。
黒猫はにっこり笑って、まあ落ち着いてください、と言った。
「びっくりさせたのは申し訳ないです。少し冷静にワタシの話を聞いてください」
「どうでもいいがお前はロボットか。どうしてこんなところから出て来た。一体何しにきた」
いっぺんにたくさんの質問をするんですねえ、と黒猫は目を細めてウーフーフーフーフと笑う。
「ワタシは2112年の未来からやってきました。あなたの曾孫にあたる舞子様の命により現れた次第です。たまたま未来との接点がこのホシガキの大型冷蔵庫だった、というわけです」
2112年の未来から来た? てか舞子って誰だ。
「混乱するのも理解できます」
「お前、ま、まさかド〇えもんの仲間か?」
「なんですと!?」
目を細めていた黒猫は表情を尖らす。いや、違うならいいけど。
「知ってますよ。昭和の古典ロボット漫画のことですね。ワタシの時代でもたまにワードが流行語になっています。"ドラ寝"とか"剛田る"とか」
目の前の未来から来たという黒猫ロボットは、分かりやすく目を吊り上げて「漫画と一緒にするなんて、失礼だなー」と繰り返した。
「ワタシの実体は、正確にはロボットではなくBOSと呼ぶものです。バイオ・プロジェクテッド・システムといいます。はるか時空を超えて舞子様の意志が投影された生命体型物質体なのです。まあこの2020年代では理解不能ですので、とりあえずロボットと呼んで頂いても結構です」
バイオなんちゃらを略してもBOSにはならないが、と呟くと黒猫ロボットは「それはどうでもいいのだー」とプンスカ怒り出す。どうやら感情的なロボットらしい。
「で、何しに来たのだ。俺は舞子なんて奴は知らんし。願わくばとっとと消えてくれ」
冷静になった俺は、ようやく目の前の状況に順応していた。早く店を締めて帰りたい。BOSなんたらというこの生命体に俺は用はない。とっとと消え失せろ。
「ひどいなあ。あなたのために舞子様が動いてらっしゃるのです。いいですか、あなたの曾孫である舞子様の時代は、あなたの横道にそれた人生のせいで、一族が皆不幸になっています。それを食い止めるためにワタシが使命を受けたのです」
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