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未来からの願い
「ひどい言いぐさだ。俺の人生が横道にそれるとはなにごとだ」
「あなたは今このどんぶり屋さんを任された店長です。でも今とても仕事に疲れていますね」
「そうだ。だから早く帰って寝たいんだ」
「了解です。でもちょっと待ってください。今仕事が大変な要因の半分以上はあなたの能力の欠如と偏った性格によるものです。すぐにでも考え方を改めて営業方針を変えないと、このお店はやがて潰れます。あなたはまだ35歳と若いですが、会社からの信用を失い続けてどんどん不幸になります」
そういうロボット的な画一的表情がインプットされているのだろう。小憎たらしい微笑みのまま、ひどいことをズバズバ言ってくる。
「お店に黒田さんという社員さんがいますね」
「ああ、いるよ」
店には一応副店長扱いの社員がひとりいる。黒田という俺より年上の男で、身体がでかく賄いを大量に食べる。ジャイアント黒田と呼ばれている。
「今のままですと、あなたは近い将来黒田さんの妹と結婚します」
「何だと」
黒田には、クリスチーヌ黒田と陰で呼んでいる画家志望の妹がいる。ベレー帽姿でよく店に現れて俺に色目を使う。その度に鳥肌を立てる。結婚だなどと冗談じゃない。
「ワタシは未来から来ていますから、あなたの人生は全部知っています」
シシシシと黒猫が気味悪く笑う。
「アナタが今望んでいるものはよく分かっていますよ。このどんぶり屋の売上を大きく伸ばして繁盛店にしたい。そして手柄をあげた敏腕店長としてどんどんと出世したい。違いますか?」
いやなヤローだが、確かに言っている通りだ。俺は30代半ばでまだ独り身ながら、ここを勝負と仕事に賭けていた。その人生が横道にそれて失敗するなどもっての外、しかもあろうことかジャイアント黒田の妹と結婚するなど、想像すらしたくない。
「それであれば、ワタシの協力が必要になってきます。ワタシがそばについてあなたのコンサルティングを致します。あなたの人生のレールはまた正常に戻るのです。それが舞子様はじめ、未来の子孫一族の願いなのです」
雲行きが変わって来たな、と感じる。どうやら、このふざけた猫型ロボットの話す内容に俺も少しリアリティを感じ始めていた。とにかく落ちぶれる未来だけは避けたい。
「分かった。ひとまず理解した。何をしたらいいか教えてくれ」
ちらりと窺った壁掛け時計はすでに3時を回っていた。いいだろう、とりあえずヤツの話とやらを聞こうではないか。
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