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モカ・ダールの話
「ワタシの名前はアラフェスフィア・モカ・ダール。お見知りおきを。舞子様の命名です。呼びづらいようでしたら、ダールでもモカでも何でも結構です」
ひとまず事務所のパイプ椅子に互いに腰かけた。
モカ?……と呟いてから、
「分かった。面倒くさいんでクロスケと呼ぼう」と俺は言った。
その呼ばれ方がお気に召さなかったようで、しばらくクロスケは不服そうに俺を見て黙った。
「なら、クロえもんでもいいが」
「いえクロスケで結構です。まったくセンスのかけらもありませんが」
「しかし2112年から来たというのはまだ信じがたいな。それを証明できるのか」
クロスケは「もちろんです」と頷く。想定の内だったようである。
「2100年のミレニアム有馬記念の優勝馬はキタカタチャーシュー、2着はサカタノミヤゲニホンカイジです。また、2096年には水戸でオリンピックが開催されます」
自信たっぷりにクロスケが答える。
「そんなの現在じゃ分かりっこない。もっと俺が分かるようなことを言うんだ」
「しょうがないなあ。未来の出来事の証明なんて現在でできるわけないんですよ。そうしたら分かりました。2024年6月10日午前4時、えーと今から1時間後に起こることを教えます。本当は”時空法”で軽犯罪に当たるけど、仕方ないです」
そうしてオーバーオールの胸ポケットからスマホ(のようなもの)を取り出す。丸い手で器用に画面を捲ってクロスケはオホンと咳をする。
「えー、6月10日午前4時。あなた帯田守は、えーと。ころげ落ちる。ハイ、そのようです」
どんな未来だと突っ込む。ころげ落ちるって何だよ。
「ワタシの端末にはそう書いてあるだけですので。でも笑って落ちるみたいなので、大したことはないようです」
「分かったよ。もうメンドくさいからなんでもいいさ。しかし本当に俺の曾孫は舞子っていうのか? 100年後にしてはレトロな名前だ」
「失礼な」とクロスケは憤る。
「とんでもない言いぐさですよ。2100年代のトレンドは『子』の字がつく名前なのですよ。舞子は2102年から10年連続で人気ナンバー1の名前です。あなたの孫の海星月さんはミーハーなので、ランキングで名前を付けたのです。ちなみに海星月という名前も、私のアラフェスフィア・モカ・ダールも、それぞれ男の子とBOSで人気ランキング1位だった名前です。代々世間に付和雷同なさる家系なのです」
密かにディスってクロスケは腹の立つことを言う。
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