モカ・ダールの話

1/1
前へ
/5ページ
次へ

モカ・ダールの話

「ワタシの名前はアラフェスフィア・モカ・ダール。お見知りおきを。舞子様の命名です。呼びづらいようでしたら、ダールでもモカでも何でも結構です」  ひとまず事務所のパイプ椅子に互いに腰かけた。  モカ?……と呟いてから、 「分かった。面倒くさいんでクロスケと呼ぼう」と俺は言った。  その呼ばれ方がお気に召さなかったようで、しばらくクロスケは不服そうに俺を見て黙った。 「なら、クロえもんでもいいが」 「いえクロスケで結構です。まったくセンスのかけらもありませんが」 「しかし2112年から来たというのはまだ信じがたいな。それを証明できるのか」  クロスケは「もちろんです」と頷く。想定の内だったようである。 「2100年のミレニアム有馬記念の優勝馬はキタカタチャーシュー、2着はサカタノミヤゲニホンカイジです。また、2096年には水戸でオリンピックが開催されます」  自信たっぷりにクロスケが答える。 「そんなの現在じゃ分かりっこない。もっと俺が分かるようなことを言うんだ」 「しょうがないなあ。未来の出来事の証明なんて現在でできるわけないんですよ。そうしたら分かりました。2024年6月10日午前4時、えーと今から1時間後に起こることを教えます。本当は”時空法”で軽犯罪に当たるけど、仕方ないです」  そうしてオーバーオールの胸ポケットからスマホ(のようなもの)を取り出す。丸い手で器用に画面を捲ってクロスケはオホンと咳をする。 「えー、6月10日午前4時。あなた帯田守は、えーと。ころげ落ちる。ハイ、そのようです」  どんな未来だと突っ込む。ころげ落ちるって何だよ。 「ワタシの端末にはそう書いてあるだけですので。でも笑って落ちるみたいなので、大したことはないようです」 「分かったよ。もうメンドくさいからなんでもいいさ。しかし本当に俺の曾孫は舞子っていうのか? 100年後にしてはレトロな名前だ」 「失礼な」とクロスケは憤る。 「とんでもない言いぐさですよ。2100年代のトレンドは『子』の字がつく名前なのですよ。舞子は2102年から10年連続で人気ナンバー1の名前です。あなたの孫の海星月(ハルム)さんはミーハーなので、ランキングで名前を付けたのです。ちなみに海星月(ハルム)という名前も、私のアラフェスフィア・モカ・ダールも、それぞれ男の子とBOSで人気ランキング1位だった名前です。代々世間に付和雷同なさる家系なのです」  密かにディスってクロスケは腹の立つことを言う。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加