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ミレーネは、メルシアがわざわざ隣国にいる魔導士に幸運のお守りを作らせたのは、ミレーネがクイーンになったときの苦労を思ってのことだと知り、感謝の気持ちでいっぱいになった。
ーーーいつも心配をかけてばかりで、何もできないのが心苦しいけれど、今回は願いが叶うお守りがあるのだから、メルシアの幸せを願ってみるのはどうかしら?
突然閃いた思いつきに、ミレーネは気持ちが昂ぶった。
メルシアが喜びそうなことを考えながら、ミレーネはメルシアが願のかけかたを話すのを満面の笑みで聞いた。
「王妃殿下。受け入れてくださってありがとうございます。寝る前に枕の下にこの紙を入れて、男の子を授かりますようにと強く願ってください。きっとうまくいきますわ」
「それだけでいいの?」
「ええ、たったそれだけで、お守りに込められた念術が功を奏すると聞きました。さぁ、成功を祈っておいしいお菓子とお茶をいただきましょう」
メルシアが浮き浮きしながら、侍女に持ってきた焼き菓子をサーブするように言いつけた。
小皿に盛られた小さなケーキの上にバラの砂糖を置いて、木苺を潰した酸味のあるソースをかけると、白い砂糖がソースを吸って、淡いピンクから赤く色づいていく。
その美しい変化にミレーネとフロリアは釘付けになり、感嘆のため息を漏らした。
木苺の酸っぱさを吸ったバラ砂糖を崩すのがもったいないと思いつつ、ミレーネは以前メルシアのお茶会で食べた花シリーズのケーキの美味しさを思い出し、はしたなくも口に溜まった唾液をゴクリと飲み込んだ。
眉をあげておかしそうに見つめるメルシアに、ミレーネは慌ててお礼を言ったが、照れ隠しなのはバレバレだろう。
「お守りとケーキをありがとう。いつもながらきれいなお砂糖ね。この間はすみれだったわよね。季節ごとにお花のシュガーケーキを楽しめるなんて、メルシアのおうちのパティシエは最高ね」
「ミレーネが好きな花のシュガーケーキも作れるわよ。今度持ってきてあげるわ」
今日は何度メルシアに感謝する日なのだろう。
ミレーネは舌の上で甘酸っぱくとろけるソースとフワフワケーキのコラボを味わいながら、幸福の笑みを浮かべた。
ミレーネは、メルシアが母と自分に尽くしてくれたおかげで得た幸せを、メルシアにも返せないだろうかと思案した。
いつかは自分の力でメルシアに恩をお返しするとして、あのお守りが本物なら、今夜枕の下に入れてメルシアのために願ってみれば、最短のお礼ができるかもしれない。
ーーーメルシアが幸せになりますように。彼女が頑張った分の良い評価を人々から得て、誰よりも幸せになりますように!
考えながらも強く念じていたミレーネは、今の文言を忘れずに今夜絶対に試そうと思った。
まさかその翌朝に王妃が流産しかけ、メルシアが殺人未遂の嫌疑をかけられることになろうとは、今のミレーネには想像もできなかった。
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