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袖と裾が広がった藍色のローブを着たハリアーが、呪文を唱えながら腕を開いたり閉じたりして水晶に波動を送る際に、翻る袖がまるでアゲハの羽ばたきのように映る。
母が苦しんでいるときにアゲハを思い浮かべるなんて、あまりにも不謹慎だと自分を諫めたミレーネが目を逸らそうとしたとき、今までに経験したことのない気流を感じた。
五感を研ぎ澄まして正体を見極めようとすると、信じられないことに藍色のローブの羽からきらめく鱗粉のようなものが飛散され、水晶に吸い込まれていくのがはっきり分かる。
周囲を見回すが、誰もハリアーが発した光の粒子に驚いているものはなく、ただ水晶を凝視しているのみ。
まさか、あれが見えていない?
あまりにも魔術力の復活を望むあまりに、自分は幻を見たのだろうか。
ミレーネは思わず目をこすり、瞬きを数回繰り返した。
ところが不思議な現象は続いていた。透明な水晶の中に蠢く影が現れたのだ。
「これは複雑な……赤子に襲いかかろうとする黒魔術が感知できます。そして、それを跳ね返そうとする白魔術の白い光も見えます」
「なんだって? 黒魔術と白魔術が妃の中で赤子をめぐって戦っているというのか。黒魔術をかけたのが誰か探ってくれ」
ハリアーの診断を聞いて王は唸り声をあげたが、すぐに冷静になって次の指示を下した。
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