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「かしこまりました」  ハリアーが再び水晶を包むように手を翳し、二十㎝ほどの距離を保ちながら全体を撫で回し、時々手を止めては念力を送り込むように手を震わせる。  ミレーネは水晶から立ち上る禍々しい気配に戦慄した。  水晶の中で渦巻いていた灰色の煙の一部が薄れていく。そこに映ったのは二つの赤い瞳。その場にいた全員が言葉にならない声を発した。  ミレーネも思わず叫んでいた。 「嘘よ!」  叫びながらも、頭のどこかで、もしかして自分にふりかかった一連の不幸はメルシアのせいかもしれないと疑ってしまう。  こんなのは、自分の能力不足を他人のせいにするための自己防衛や逃避じゃないのかと、自己嫌悪が湧く。  メルシアはいつもミレーに優しすぎるほど優しかったではないか。彼女を疑うのは間違っている。  自分に言い聞かせるミレーネの頭に、ふと十二年前の外遊びが蘇った。  巨大化した蜘蛛にぐるぐる巻きにされる侍女たちの姿と気絶するアイリス。  ミレーネは小さな体を震わせながら、メルシアのシルクのドレスを引っ張り、ダメダメと首を振り、メルシアはその手を振り払って、冷たく言ったのだ。 「あなたなんか生まれてこなければよかったのよ。一緒に蜘蛛の餌食にしてあげましょうか?」  あのときの殺意を込めた赤い目が過去からも迫ってくるように感じて、ミレーネは心臓を貫かれそうなほど恐怖を感じた。
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