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「ハリアー先生。そんなことをおっしゃらないで。私は先生を信じています」
ミレーネはハリアーに駆け寄り抱き起した。
出来の悪い生徒を見限ることなく、ミレーネに恥をかかせまいとして、何かと気を配ってくれた優しい大魔術師の落胆に心が痛む。
「お父様、お母さまや赤ちゃんのことが心配で、疑心暗鬼に駆られたとしても、忠義に厚いハリアー大魔術師をお疑いになるなんてあんまりです」
普段は控えめなミレーネが、今まで家臣をかばって王に歯向かうなど一度たりとも無かった。
本来は明るく活発な気質であったミレーネが、ある時点を境に能力を失い、花が萎れるように魂の輝きまで無くしてしまったようで、両親や周囲の者たちを心配させていたが、目の前で王と対峙するミレーネは凛として王女の風格を漂わせていた。
「ミレーネ、お前の言うことはもっともだ。証拠もないのに人を疑ってはならないな。父が間違っていた。ハリアー許せ」
国を統べる王ともあろう人物が頭を下げたのを見て、部屋にいた者たちは全員驚愕の表情を浮かべた。
もちろん一番慌てたのはハリアーだ。
「頭をお上げください。ミレーネさまの魔力量の減退で、私の能力をお疑いになるのはもっともなことです。私の力が足りないとお思いなら、ミレーネさまの指南役を他の魔術師に代えていただいても結構です。ですが、此度の呪術が本当にメルシアさまのものかどうかを見極めてどう解くか、最後まで関わらせていただくことをお許し願いたい」
「もちろんだ。師の交代は事件の解決後に考えよう」
フレデリック王は衛兵に、メルシアを嘆きの間に連れてくるように命令した。
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