難航する論証

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難航する論証

 「嘆きの間」それは王族・貴族などが罪を犯した疑いがあるときに呼び出され、有罪か無罪かを論証する部屋である。  一辺が十五mほどの王宮の中の部屋にしては小さめの部屋だが、ここには関係者と大魔術師しか入れないので部屋の大きさは問題にはならない。むしろ目を引くのは、装飾品だけではなく、窓が一つも無いということだ。  部屋の中央には、五星が描かれた直径五mほどの魔法陣があり、円と星の五つの先端の接点から数歩離れた場所に五人の魔術師が立っている。  その五人は幸運のお守りの証明書にサインした大魔術師ハリアーと他四名の魔術師だった。  一つしかない出入口の反対側には傍聴席が設けられ、席に着いたフレデリック王とミレーネが、今まさに宰相に導かれて入ってくる王弟ヘンリーと妻のカリーナ、そのあとに続くメルシアをじっと見据えていた。  ヘンリー夫妻とメルシアは理由を何も聞かされていなかったらしい。 朝の六時に王弟の館に王からの伝令が到着し、メルシアに召致命令が下ったことを告げたのだ。  髪も服装も乱れた三人は、通されたのが「嘆きの間」だと気づいて顔色を失った。 「兄上、いったいこれは何事か。ここは罪人を裁く部屋ではないですか。メルシアが何をしたというのです」 「お父さま、怖いわ。私は何も悪いことはしていません。確かに小さなころはトラブルばかり起こしていましたが、心を入れ替えてお父さまが自慢できる娘になろうと日々努力しています。これは何かの間違いです」
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