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プロローグ
深い森の中の道を一台の簡素な馬車が疾走していた。
その馬車の中には、銀色の長い髪と新緑の瞳を持つ、若く美しい女性が侍女も連れずにただ一人。座席から振り落とされないように背もたれに張り付いている。
イゾラデ王国の王女だというのに、ミレーネが飾り気のないドレスを着ているのには理由がある。
憎しみに囚われた従姉のメルシアが、ミレーネの婚約者であり、トリスタナ王国の皇太子ルキウスに会いに行ったと知って、取る物も取りあえず隠れ家から飛び出してきたからだ。
本当なら母の祖国から出発するのは、背中の傷が完全に癒えてからのはずだった。
メルシアの術で死にかけ、姿をくらましてから三年近くの時が経つ。ルキウスはミレーネの探索を諦めてしまったのか、新たな婚約者を見つけるために舞踏会を開くというお触れを出したというのだ。
「こんなことなら、生きていると伝えておけばよかった」
でも、己の醜い姿を、愛しいルキウスに見せる勇気は無かなかった。
そして何より、万が一メルシアに居場所を知られてしまったら、衰弱しきった体には戦う力も残っていないと分かっていたから、黙するより他はなかったのだ。
ルキウスの婚約者探しの舞踏会の話を聞いた直後、ミレーネは居ても立ってもいられなくなり、ほぼ傷が癒えた今なら戦えると決心して、ルキウス宛に会いたいと手紙を書いた。
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