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張りのある黒髪がさらさらとなびき、赤の双眸が興味津々に自分に注がれ、リリエンは慌てた。
きゅっと唇を引き結び常に機嫌が悪そうなイメージはあるが、薄い唇に縁取られた口は本気で笑うと意外に大きく横に広がることをもう知っている。
この部屋に入ることを許されてから、エルドレッドは冷たくも厳しくもなかったが、単純に『邪魔しないなら追い出すのも面倒だし置いておく』程度の熱量だった。
リリエンも邪魔だけはしないように気を配りながら、当初の目的を忘れずたまに話しかけたりしていた。
そのおかげでエルドレッドの態度は軟化していったけれど、あくまで『邪魔をしなければ』が前提だ。
遠慮せずに話しかけるほうが表情の険が取れると、ぽんぽんと言い合うようにはなったけれど、それも『気を遣われるのも面倒』という理由だ。
――ったはずなんだけど……。
距離感の違いに戸惑ってしまう。
あの面倒くさがりの殿下が実践までするその心は?
妙な焦りで喉が乾きこくっと中途半端に喉を鳴らし、リリエンは口を開いた。
「……あっ。実践せずとも、殿下は十分素質があると思います」
エルドレッドの持つ身分や美しい顔立ちにそれほど深い関心は持っていないリリエンでも、興味を浮かべた笑みを向けられればその端整な顔に意識は向くし動揺する。
何しろ、今までにないほど距離が近い。これがいけない。
「ふうん? 素質ね。つまり、リリエンは俺を意識している?」
くいっと顎を持ち上げられ見つめられる。
こくこくと顎を掴まれたまま小さく頷くと、エルドレッドが悠々と笑みを浮かべた。
「それはよかった。なら、もっと意識しろよ」
リリエンは驚愕で目を見開いた。
――なんでそうなる????
「いや、なんで?」
内心の動揺のまま訊ねると、エルドレッドはリリエンの唇に親指を押し当て顔を近づけた。
「実践」
ぽそりと一言落とし、顔を近づけてくる。
ぎゃーっ、と内心大慌てしているのに身体はぴくりとも動いてくれなくて、リリエンはその美貌が近くのをただただ眺めるはめになった。
「あっ」
冴え冴えとした瞳の奥が熱に揺らめく。
指をどけたら触れてしまうところで耐えきれなくて声を漏らすと、触れる寸前でぱっと顔が離された。
「さすがにここまではな。ふっ。本当にされると思ったか?」
吐息の感触だけを残し、エルドレッドがにやにやしながらリリエンの頬をすぅっと優しく撫でた。
はくはくと驚きと羞恥で口を動かしていると、こつり額をくっつけてくる。
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