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5.秘策の結末
白昼堂々といかがわしい表紙がずらりと置かれた机を前に、リリエンは戸惑いの声を上げた。
「あっ、待ってください」
並べ終わると侍従はさっさと下がり、側近や護衛も含む眼差しを残し、じゃ、と爽やかに部屋の外に出てしまい二人きりされる。
是非、彼らにも部屋にいてほしかったのに、エルドレッドのもとに長く通うことによって親しくなり信頼されることになった弊害がこんなところに出てしまった。
名残惜しむように視線を扉に向け、リリエンはうーむと眉尻を下げる。
すると、やたらと爽やかな笑顔でリリエンの肩を掴んでいたエルドレッドは、すっと顔を寄せ耳元でささやいた。
「リリエン。こっちを見ろ」
低く響く美声にぞわっと肌を粟立たせ、リリエンは不安を喉の奥に押し込めた。
おずおずと振り仰ぐと、目の前で睫毛が瞬き、その奥の赤い瞳がひたとリリエンを見据えていた。
視線が絡むと、エルドレッドの笑みが深くなる
「殿下。本当に一緒に読むのですか?」
「ああ。その様子じゃリリエンも目を通していないのだろう?」
「そうですけど……。リサーチはしっかりしましたよ」
人気があるものや密かに流行っているもの、友人の意見を聞いたりして取り寄せた。
特に変なものがなければそれでいいと、どれがエルドレッドの琴線に触れるかわからず幅広くそして手当たり次第でもあった。
「ならいい機会だろ? その気にさせた責任としてこれから毎日この本を見ていこうか」
「毎日?」
リリエンは言葉を反復し沈思していたが、具体的に想像しあり得ないだろうと目を見張った。
――それが、その気にさせた責任?
冗談だと言ってくれと願いを込めてリリエンが軽く首を傾げると、その際にはらりと落ちた髪をすくい上げエルドレッドが耳にかける。
それから耳元に唇を寄せた。
「ああ。全部だ。リリエンは俺と話せる機会をずっと待っていただろう? ちょうどいい。毎日一時間。一緒に勉強しようか」
「あっ、勉強……」
笑顔で応えようとしたが、少し顔が引きつってしまった。
嬉々として贈ってきたものが、このような形で返ってくるとは思わない。しかも、息がかかるほど近くでささやかれ、リリエンはばっと上半身を引いた。
「問題でも?」
リリエンの反応に楽しげに笑みを浮かべたエルドレッドの双眸は、そう訊ねながらも断らないだろと自信に満ちあふれ恐ろしいほど輝いていた。
いつもなら皇子相手にも遠慮なく言いたい放題していたのだけど、この時ばかりは言葉を慎重に選ぶ。
「いえ。問題はありません。ただ、その、そういうことに私は詳しくなく」
「人に勧めておいてそれはいけないよな? 一緒に勉強して、是非ともリリエンのお勧めを教えてもらいたいものだ」
なんてことだ。
リリエンは頭を抱えたくなった。
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