5.秘策の結末

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 エルドレッドに興味を持ってもらうことばかり考えて、自分も読むことになるとは想定していない。  困ったと眉根を寄せながらちらっとエルドレッドに視線を投じると、皇子はにこやかな笑顔を浮かべてリリエンの腰に手を回し、もう片方の手で机の上を指さした。  ――逃げられない。  がっちり回った腕は思っていたより太く、リリエンの動きを封じてくる。  頭上にあるエルドレッドを見上げると、さあ選べと促された。 「どれから勉強する?」  リリエンは観念して前方に視線を巡らせた。  『女体の感じ方』や『男女の営み図録』はさすがにハードルが高い。ならばと、少し離れた場所にある小説に目を向ける。  白とピンクと黄色を基調とした本は、『キュンキュンメモリー。これであの子も俺に夢中』というタイトルだ。  誰が書いたこれと突っ込みたくなるようなこのタイトルなら、そんな濃密なものではないだろうとリリエンは手に取った。 「これにしましょう。殿下も、それに私も初心者なので」 「そうか。ならそうしよう」  私が手にとった本を見て、エルドレッドは面白そうに口の端を引き上げた。  大きなソファに並んで座り、本を開く。  ぱらぱらと流し見ている横でリリエンも視線を投じると、壁に女性を追い詰め口説いている様子や、口づけする寸前の顎に手をおく角度など、ものすごく事細かに描かれている。  そして、無駄に絵が上手い。  大人の絵本? というほど丁寧に描写されたそれは、裸体がドンとあるよりもなんだか気恥ずかしいものだった。  しかも、手ほどきなので男女の細部まで描かれ、指先一つとっても艶めかしく見える。  ――こ、これは……。  リリエンは顔を赤らめた。  黙ったリリエンに、エルドレッドは面白そうな顔をして笑う。 「どうした?」  切れ長の瞳は相変わらずじっとリリエンを見つめているが、責任の追及という割にそこに不機嫌さは表れていない。むしろ、終始楽しそうだ。 「その、やっぱり違うやつを……」 「リリエンが選んだのだろう? さっきも言ったが人に勧めておいて、自分は嫌だというのはおかしいんじゃないか?」  真っ当な言葉に、リリエンはぐうの音も出ない。 「わかりました」  期待を裏切らないだろうと好戦的にも見える双眸でじっと見据えられ、確かにそうだとこくりと頷く。  しかも、手元にある本はエルドレッドに興味を持ってもらおうと吟味した上で購入したものだ。ちゃんと目を通してくれるというのなら、この機会を恥ずかしいといって逃すのは惜しすぎる。  ――これは最大のチャンスよ!!  リリエンは気合いを入れ直し、目の前の本に視線を投じた。
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