1.責任をとってもらおう

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「へえ。十倍。最初はどれほどもらっていたのか知らないが、きっとかなりの金額だろうな」 「……ああ~っ、私はそれほど皇后様が殿下を心配していたと言いたかっただけで」  しくじったとリリエンは眉尻を下げた。  ここ数か月ほどのやり取りで、すっかり慣れた応酬にそのままつるっと口が滑ってしまった。  でも大丈夫。金額は言ってないから秘密は守られたままだ。  気を取り直し、私は何も悪いことをしていないのだからとエルドレッドを見つめる。  すると、なぜかエルドレッドの機嫌が急降下した。  続いて、はははっと笑い、エルドレッドは差し出していた手をリリエンの肩にぽんと置く。 「エルドレッド殿下?」 「よおーくわかった。お前は男を弄ぶ悪女だ」 「なんでそうなるのですか!? 私は殿下のためを思い頑張っただけなのに」  悪女なんて心外だ。  リリエンは男性を誑かそうなんて一度も考えたことはない。そんなことを考える暇があったら、どうやって家計をやりくりするか考えている。  一度も皇子を色仕掛けしたこともないし、彼に気に入られようなんて思ったこともない。  ただ、リリエンは任務遂行するためにエルドレッドに近づいただけだ。  それはお金のためでもあるけれど、それ以下でもそれ以上でもない。お金をもらうからには任務を遂行しようと頑張っただけだ。決してそれ以外の不純な動機はない。  それにエルドレッドも、リリエンが皇后から遣わされたとわかっているはずだ。 「ああ、性懲りもなくたくさん押しつけてきたな」  エルドレッドが指を鳴らすと、彼の侍従が重そうな書類の山を持ってくる。  リリエンはまさかと目を見開いた。  ――あれは夜にこっそり読むやつなんです。多分。  贈ったリリエンにやましい気持ちはないが、白昼堂々と人目にさらされるのは違うと思った。  どうしましょうと焦っている間に、仕事のできる侍従は丁寧に机の上に並べていく。  白に金箔の表紙や、ドギツイピンク色のものまで実に多様だ。  凝視できずにそわそわと視線を彷徨わせていると、エルドレッドがとん、とん、と一つひとつ手に取ってリリエンの前に掲げた。
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